わたしと紅覇さま、二人で手合わせをしていたところまではよかったのに。
現在、わたし達二人は紅覇さまの自室への道のりをわたしはずびずびと泣きながら、紅覇さまはわたしとは正反対にしれっとした顔で歩いている。そんな紅覇さまの膝は擦りむけて赤く染まっていた…この傷はわたしとが原因だ。
わたしはどうしようもなく悲しくって、泣き止もうと思ってもわたしの真っ赤な瞳はわたしの気持ちを無視してぼろぼろと雫をこぼす。

「こ、こうはさま…!本当に、ほんとうに申し訳ございません…!!」
「だからいいって!!ああもう耳元で叫ぶなよ!」
「はっ…!ごめんなさい紅覇さま!!」
「はいはい分かったから〜!もうおまえは黙って!!」

いつまでもずびずびぐずぐずと泣いているわたしを紅覇さまが宥めてくれる。普通だったら逆な気がする。またごめんなさいすみませんと謝罪の言葉が浮かんできたけれど、紅覇さまに気をつかわせてしまうので言うのはやめた。できるだけ泣かないように、ぎゅっと唇を噛み締めていると、そんなわたしを見た紅覇さまが溜息を尽きながら口を開く。その溜息にわたしはびくりと肩を揺らした。

「ほら、もう泣かないの。」
「で、でも、紅覇さま…」
「てか、この怪我はおまえのせいじゃないでしょ〜?」

紅覇さまの言葉に、わたしは紅覇さまが怪我をした時のことを思い返す。
それは先程、わたし達が手合わせをしていた最中のこと。わたしが紅覇さまからの攻撃を防ごうと通常どおり髪を硬化して自分を包んで、それを離した時にそれは起きた。わたしは自分を包んでいた髪に自ら躓いてしまったのだ。突然のことで硬化は解け、わたしを支えるものは何もない。そのまま地面と顔からぶつかりそうになった、その時。紅覇さまがわたしが地面とぶつかる前に支えてくださったのだ。膝の傷はその時にできたもの。
紅覇さまはわたしのせいではないと言ったけれど、これは完全にわたしのせいだ。まさか自分の髪に躓いてしまうなんて…本当に情けなさすぎる。わたしは馬鹿だ。いいえ、馬鹿なんて言葉ももったいないくらい。

「わたしのせいです。わたしがあんなドジしなかったら紅覇さまは怪我をしなかったもの。」
「おまえねぇ…ちょっと怪我したくらいで大げさなんだよ。このくらい大丈夫だってば。おまえは僕がこんな怪我で駄目になるとでも思ってんのぉ?」
「そ、そんなことは…!」
「ならこの話はもうやめやめ〜!もっと楽しい話しよ。ね?」
「う…」

言葉を詰まらせたわたしに、紅覇さまが返事は?と問いかける。最初は口を開けなかったけれど再び返事!と言ってくる紅覇さまに、わたしは流されるままにはいと返事をしてしまった。声が小さいけどしょうがないから許してあげるなんて紅覇さまの声を聞きながらも、わたしはわたしの中で納得ができないでいた…こういうのを面倒くさい子っていうのだと思う。自分でもわかってる。
そんなわたしの腑に落ちない気持ちが伝わってしまったのか、紅覇さまが口を開く。彼はなぜか口元に弧を描き、妖艶な笑みを浮かべていた。

「何〜?じゃあおまえなにか罰でも欲しいの?そういう趣味?」
「しゅ…!?そ、そういうつもりではっ!」

予想外の言葉に、わたしは驚いてぽろぽろと流れていた涙も引っ込んでしまった。そんなわたしを見て紅覇さまが面白そうにけらけらと笑う。笑う紅覇さまにつられて、なぜかわたしも自然と笑顔になった。それと同時にわたしの頭に乗った紅覇さまの手。わたしがへ?と間抜けな声を出しそうになる前に、その手はわたしの頭を軽く叩いた。

「はい、お仕置き。」
「え、えっ…?」
「だっておまえが罰欲しそうだったからさぁ。僕からお仕置き、ね?」
「お、おしおき…」

わたしは紅覇さまに叩かれ、た?頭を自分の手で押さえた。ちょっぴり紅覇さまの熱が残ってたり、するような気もしなくもない…紅覇さまはおしおきなんて言ったけれどこれって。
今度は熱くなって赤くなってくる顔をわたしは慌てて押さえる。そんなわたしを見て紅覇さまはまたくすくすと笑みをこぼしていた。頬を伝っていた雫はいつの間にか消えていた。

口実ばかり見つかる季節

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