他の人に比べて短い手足を精一杯延ばし、わたしの背よりも高い本棚の中段に手を伸ばす。 本棚の中段には紅覇さまに持って来て欲しいと言われた本があるのだ。なんとしてでも持っていかなければならない。

「う、うーん…」

持っていかなければならないのだけれど。一向に本棚の中段に届く気配のないわたしの手。ぴょんぴょんとその場を飛び跳ねてみたけれど、ぎりぎり手の先が中段に届くくらいでどうしてもわたしが取りたい本には届かない。

「……うーん。」

さて、どうしよう。わたしが困った時、いつも助けてくれる純々さん達は今近くにいないし。まず今わたしがいる場所、書物庫はあまり人が立ち入らない。廊下に出れば女官の方に会えそうだけれど、この髪のせいで怖がられてしまいそうだ。ん?この髪。

「…あ。」

ふと、いい案を思いついて自分の真っ白い髪の毛に視線を移した。
わたしのこの髪は剣のように物を切り裂くことができる。つまり、鋼のように硬くできるのだ。なんだかんだでまともにこの髪を使ったのは施設で戦闘をさせられた時が最後。すっかり硬くできるということを忘れていた。
試しに自分の髪に意識を持っていって髪を硬くさせる。やっぱりなんだか馴れなくて不思議な感覚だけれど、よく考えれば使いこなせたら便利そうである。
自分の力を生活に生かすだなんて考えたこともなかったけれど、今わたしがこんなにのんびりできているのは今更ながら紅覇さまのおかげだ。そんなことを考えていたらなんだか胸がいっぱいになり、早く紅覇さまの所に戻りたくなってきた。
まだ少し不安はあるけれど本棚の中段に硬くした髪を伸ばし、なるべく優しく本を掴む。誤って切り裂いてしまったらそれこそまずいもの。 
本を自分の手元に誘導し、とりあえずは無事に本を手に入れることができた。
さて、早く紅覇さまのところに行こう。そう思ってわたしが振り向くと、わたしが向かおうとしていた書物庫の扉には紅覇さまの姿があった。

「こ、こ…紅覇さま!?」

まさか紅覇さまがいるとは思っていなくて、思わず持っていた本を落としそうになってしまった…心臓に悪い。 

「お、お待たせしてしまいましたか?ごめんなさい…!」
「いや、別にそれはおまえのせいじゃないから謝んないでよ〜てかそれよりっ!」
「へ…?」

紅覇さまが目をきらきらさせながら指さしたのは、先程まで活用していたわたしの髪の毛。

「え、えと…髪の毛が、どうかしました、か?」
「さっきの!さっきのもっかいやってみて!」
「さっきの?」

紅覇さまからのあまりにきらきらした無邪気な期待の視線に、なにかすごいことしたかなと不安になる……わたし、何かしたっけ。もう一度自分の行動を思い返してみると、一つだけ心当たりがあった。

「髪を、硬くする…事ですか?」
「そうそう!やってやって〜!」
「は、はい。」

紅覇さまからの視線は他の人のような気持ち悪がる気持ちなど全然伝わってこなくて、やっぱり彼は他の人とは違うと感じさせる。紅覇さまの希望どおり試しにまた近くの本を髪で掴んでみると、彼はすごいとただ純粋に喜んでくれた。

「おまえ、なんでこんなすごい事できんのに黙ってたのぉ?勿体無いなぁ。」
「あ、あの…気持ち悪がられるかなと思ってて。」
「気持ち悪くないよ〜触ってもいい?」
「は、はい。」

紅覇さまは書物庫の扉からわたしの傍へと駆け寄ってくる。紅覇さまがこんなに喜んでくれるなら、もっと普段から髪を使おうかな。
綺麗だねと目を伏せながら微笑んだ紅覇さまはなんだか色っぽく感じて、思わずどきっとしてしまった。

「あ〜なんか髪弄りたくなってきた〜!なまえ、つき合ってね。」
「は、はい!もちろんですっ!」

紅覇さまの手がわたしの髪を通る感覚にわたしがどきどきしっぱなしだったのは、言うまでもない。

屋根の下だと悲しくならない

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