ピピピとけたたましく鳴り響く目覚まし時計を手探りで探し出し、布団の中から出した右手で止める。 ぼんやりとした意識が徐々にはっきりと浮上し、ゆっくりと目を覚ます。 「ん…」 目を開けるとそこにはいつもの白い、何の変哲も無い私の部屋の天井が映る。 ゆっくりと起き上がり、考えるのは頭の断片にある映像。 「夢…?」 その映像は段々とぼやけていき、やがて思い出せなくなった。 だからこれは夢なのだろう、そう思うのだけれども、何故か夢ではない気もする。 最近、ずっと見ている気がするし、見ていない気もする。 要ははっきりと覚えてないので、よく分からないのだ。 「…でも誰かに花梨って、呼ばれたような」 気のせいなのだろうか。 ベッドからゆっくりと足を下ろし、立ち上がる。 クローゼットに掛けてある制服に手をかけ、欠伸を噛み締めながら着替える。 姿見で全身のチェックをしてから、机の上にある可愛らしいフォトフレームに入っている、少し古ぼけた写真に微笑みかける。 「…行ってきます」 勿論、返事は帰ってこない。 写真に写っているのは、幼い頃の私と、幼馴染の桜井夕月、そして若宮奏多。 私たち3人は朝陽院という孤児院で一緒に過ごし、家族のように育ったのだ。 けれども、私はこの黎泉家に養女として引き取られ、そこからは連絡も何も取っていない。 幼い頃の私には、連絡先や住所を教え合うなんて考えが出てこなかったから。 だから、もう2人とは何年も会っていない。 けれども、それでもひとときを共に過ごした家族だ。 「…会いたいな」 ふと、窓枠に切り取られた空を見上げる。 今日は雲1つなく、澄み切っていた。 「花梨ー?起きてるのー?」 「あ、起きてます!」 下の階から呼びかけられ、私は急いで鞄を取り、部屋を出た。 ▽▽▽ 「おはようございます リビングへと続く扉をガチャリと音を立てながら開き、一礼した。 すると、おはようと返事が返ってくる。 優しく微笑みながらキッチンに立っている女性、今はお義母さんだ。 「珍しいな、花梨が呼ばれるまで下に降りてこないなんて」 そう言いながら読んでいた新聞をがさりと畳み、ダイニングテーブルとセットになっている木製の椅子に座っている男性、お義父さんが私の顔を見ながらそういった。 「何でもないです」 「ほら、早くご飯にしましょう?」 「はい」 お義母さんの手伝いをするために、キッチンへと入る。 お義母さんとお義父さんに敬語を使うのは、こんな私を引き取って下さったから敬意を表して。 お義父さんとお義母さんは、私が敬語を使うのをあまり快く思っていないが、もう慣れたのか何も言ってこない。 お義父さんもお義母さんも、本当に良い人だ。 ほかほかと湯気が立つ出来立ての朝ご飯を運び終え、椅子に座る。 「いただきます」 手を合わせて、感謝を込めながら箸をつける。 時折世間話を交えながら、朝食を食べ終えていく。 「ご馳走様でした」 「今日もきちんと全部食べたな」 「はい!とっても美味しいので」 「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいわ」 お義母さんがにこりと微笑む。 それに釣られ、私も微笑んだ。 「花梨、もう時間だが、ゆっくりしていていいのか?」 お義父さんの言葉に、壁に掛けられている時計の文字盤を凝視する。 時の流れは早く、最早家を出る時間となっていた。 「今出ます」 私は椅子からゆっくりと立ち上がり、近くに置いておいた鞄を持って玄関へと急ぐ。 お義父さんとお義母さんも立ち上がり、玄関まで見送ってくれた。 ローファーに足を入れ、トントンを奥まできちんと入れる。 「いってきます」 「いってらっしゃい」 「気をつけるんだぞ?」 「はい!」 私は玄関から外に出て、早足で通学路を歩き出した。 向かうのは、転校して暫らくたち、慣れてきた新しい学校だ。 *2015/12/03 |