02


ピピピとけたたましく鳴り響く目覚まし時計を手探りで探し出し、布団の中から出した右手で止める。
ぼんやりとした意識が徐々にはっきりと浮上し、ゆっくりと目を覚ます。


「ん…」

目を開けるとそこにはいつもの白い、何の変哲も無い私の部屋の天井が映る。
ゆっくりと起き上がり、考えるのは頭の断片にある映像。


「夢…?」

その映像は段々とぼやけていき、やがて思い出せなくなった。
だからこれは夢なのだろう、そう思うのだけれども、何故か夢ではない気もする。
最近、ずっと見ている気がするし、見ていない気もする。
要ははっきりと覚えてないので、よく分からないのだ。


「…でも誰かに花梨って、呼ばれたような」

気のせいなのだろうか。
ベッドからゆっくりと足を下ろし、立ち上がる。
クローゼットに掛けてある制服に手をかけ、欠伸を噛み締めながら着替える。
姿見で全身のチェックをしてから、机の上にある可愛らしいフォトフレームに入っている、少し古ぼけた写真に微笑みかける。


「…行ってきます」

勿論、返事は帰ってこない。
写真に写っているのは、幼い頃の私と、幼馴染の桜井夕月、そして若宮奏多。
私たち3人は朝陽院という孤児院で一緒に過ごし、家族のように育ったのだ。
けれども、私はこの黎泉家に養女として引き取られ、そこからは連絡も何も取っていない。
幼い頃の私には、連絡先や住所を教え合うなんて考えが出てこなかったから。
だから、もう2人とは何年も会っていない。
けれども、それでもひとときを共に過ごした家族だ。


「…会いたいな」

ふと、窓枠に切り取られた空を見上げる。
今日は雲1つなく、澄み切っていた。


「花梨ー?起きてるのー?」

「あ、起きてます!」

下の階から呼びかけられ、私は急いで鞄を取り、部屋を出た。



▽▽▽



「おはようございます

リビングへと続く扉をガチャリと音を立てながら開き、一礼した。
すると、おはようと返事が返ってくる。
優しく微笑みながらキッチンに立っている女性、今はお義母さんだ。


「珍しいな、花梨が呼ばれるまで下に降りてこないなんて」

そう言いながら読んでいた新聞をがさりと畳み、ダイニングテーブルとセットになっている木製の椅子に座っている男性、お義父さんが私の顔を見ながらそういった。


「何でもないです」

「ほら、早くご飯にしましょう?」

「はい」

お義母さんの手伝いをするために、キッチンへと入る。
お義母さんとお義父さんに敬語を使うのは、こんな私を引き取って下さったから敬意を表して。
お義父さんとお義母さんは、私が敬語を使うのをあまり快く思っていないが、もう慣れたのか何も言ってこない。
お義父さんもお義母さんも、本当に良い人だ。
ほかほかと湯気が立つ出来立ての朝ご飯を運び終え、椅子に座る。


「いただきます」

手を合わせて、感謝を込めながら箸をつける。
時折世間話を交えながら、朝食を食べ終えていく。


「ご馳走様でした」

「今日もきちんと全部食べたな」

「はい!とっても美味しいので」

「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいわ」

お義母さんがにこりと微笑む。
それに釣られ、私も微笑んだ。


「花梨、もう時間だが、ゆっくりしていていいのか?」

お義父さんの言葉に、壁に掛けられている時計の文字盤を凝視する。
時の流れは早く、最早家を出る時間となっていた。


「今出ます」

私は椅子からゆっくりと立ち上がり、近くに置いておいた鞄を持って玄関へと急ぐ。
お義父さんとお義母さんも立ち上がり、玄関まで見送ってくれた。
ローファーに足を入れ、トントンを奥まできちんと入れる。


「いってきます」

「いってらっしゃい」

「気をつけるんだぞ?」

「はい!」

私は玄関から外に出て、早足で通学路を歩き出した。
向かうのは、転校して暫らくたち、慣れてきた新しい学校だ。



*2015/12/03



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