03


少しだけ廊下を早足で翔ける。
教室が見えてきたと安堵した瞬間に始業を知らせるチャイムが鳴り響く。
焦った私は急いでそのチャイムの音を遮るように、ガラリと教室の扉を開けた。
幾つのも視線が私に突き刺さるが、そんなことは今は気にならない。
ちらりと淡い期待を込めて教卓を見るが、まだ誰も立っておらず、安堵からゆっくりと息を履吐く。


「セーフ…」

「アウトだ」

背後から声が聞こえ、不味いと思った瞬間に出席簿で頭を軽く叩かれる。
恐る恐る背後を見ると、そこには担任の先生が呆れを交えたため息をついていた。


「先生…」

「はぁ、もういい早く座れ」

「はい…」

もう一度盛大なため息をつかれ、私は苦笑しながら席へと向かう。
席へ向かう途中に、友達から「セーフで良かったね!」「ギリギリセーフ!」などと、からかい混じりに声をかけられ、それに笑顔で答えた。
なんだかんだ言って、私がもし遅刻していたら、何だかの理由をつけて私を庇ってくれていたであろう友人に、私は微笑む。
優しい友人に囲まれ、私は幸せ者だ。



▽▽▽



「これで授業を終わる、日直!」

「起立、礼」

ゆっくりと視線を床に向け、礼をしたその時にチャイムが鳴り響く。
やっと長ったらしい授業が終わり、教科の先生が教室から出ていった。
それを尻目に、授業道具を片付け、噛み殺していた欠伸をする。


「ん…」

固まっていた筋肉を解すように手を組み、頭上まで伸ばした。
すると、陰鬱とした気分が少しだけ晴れ、ゆっくりと止めていた息を吐いた。


「そういや、黎泉がこのクラスに来てから、もう2ヶ月も経ったんだな」

「え?」

隣の席の友人が、私の顔を見つめてポツリと呟いた。
確かに、お義父さんの仕事の都合でこちらに引っ越してきてから、2ヶ月程経過している。


「そうだね、まだ2ヶ月しか経ってないんだ」

「え、そうだっけ?」

「もっと前から居たような気がするけど…」

私の席の周りに集まった友人達は、私の顔を見つめながら話を盛り上げていく。
私はそんは皆を見て苦笑を零す。
2ヶ月前に転校してきたという事実は変わらないのに、友人達はもっと前から一緒にいた気がすると、裏を返せば、ずっと前から仲がいい友人だった気がすると、そう言ってくれているのだ。
私は嬉しくなって、はにかんだ。


「黎泉、いるか?」

ガラリと教室の扉が開き、担任の先生がひょっこりと顔を出す。
私の名字を呼ばれたので、椅子から立ち上がり、先生の近くへと歩いていく。


「どうかしましたか?」

「黎泉にお客様が来ているそうだ、今すぐ校門前まで行ってきてくれ」

「今行きます」

私はそのまま、校門前まで足を向けた。
お客様って、誰のことだろう。



*2015/12/03



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