01


赤い、紅い、アカイ。
全てが赤く染まった空間に、私はいた。
私たちの周りは赤い焔が燃え広がり、行く手を阻んでいる。
辛うじて残った床や壁には、細かく鮮血が舞っていて、まるで元からそうであったかのように赤黒く染み付いている。
そんな赤い空間の中で、私はとある男性の腕の中にいた。
元は綺麗な着物だったであろうそれを、自らの赤い鮮血で汚し、力なくその男性に寄りかかるように抱かれていた。


「、っ…」

息を吸い込むと喉が焼け付くように痛む。
体が段々と冷えていくのを感じながら、私は優しく、そしてどこか苦しそうに私を抱く男性に視線を向ける。


「っ、花梨…」

男性は整った顔をぐしゃりと歪ませ、優しく私の頬を撫でた。
その手つきがあまりにも繊細で、儚げに何度も撫でるので、愛おしく思える。
最早力が入らない手をゆっくりと動かし、頬を撫でている手に重ねる。
その手は、とても暖かく感じた。


「花梨、ごめん…」

男性の頬に、涙がつうっと伝う。
それは重力に従って、顔に落ちた。
男性の傍らに落ちている刀は赤黒く染まっており、この男性が私を刺したのだと直感で分かった。
けれども、この男性に対して恨みも、悲しみもなかった。
だから涙は出なかった。
男性の顔は見る見るうちに絶望と悲しみに飲まれていく。
それが嫌で、私は必死に声をだそうと口を開ける。


「っ、ぁ…」

喉が焼けて爛れてしまったのだろうか。
もはや掠れて殆ど周りの音にかき消されてしまう。
けれども、私は伝えたかった。
この男性に、彼に、私の想いを。


「わ、たし…っ、」

「花梨!」

無理に声を出そうとすれば、口から鮮血が零れた。
痛い、なんて比ではない痛さに、早く楽になってしまいたいとさえ思う。
けれどもそれは、私の最後の意思が許さなかった。
伝えなければ、それを成し遂げられなければ、死ねない。


「だい、じょうぶ…だよ」

ゆっくりと、男性の手に重ねていた手を動かし、次々に溢れ出ている涙が伝う、その頬へと触れた。
男性はその私の手を強く握った。
逝くなと、そういうかのように。


「も、し…生まれ変わる、ならば、」

もう死期が近い。
自分の体なのだ、それくらいはわかる。
視界が霞んで、男性の顔が歪んで見える。
音が遠くなったり近くなったりと騒がしい中、思考も殆ど働かない。
きちんと伝えられているだろうか、ただそれだけが不安だった。


「また、貴方の、そばで…」

そう口にするや否やすぐに体の力が抜けた。
ゆっくりと思考は闇に飲まれ、鼓動が消えていくのを感じた。
最後に、笑顔で伝えられて良かった。
もう、何も思い残すことは無い。
さようなら、最愛の人。



*2015/11/23


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