卒業試験を無事に終えたその日の夜。 私は男子の部屋にこっそりと遊びに来ていた。 「今日受かったのは俺達を含めて20人だってさ、情ねぇ、俺なんかまだ震えてるよ…」 ミカゲの言葉を聞きながら、私はミカゲの腕に包帯を巻いていく。 確かに、言葉通りミカゲの腕は少しだけ震えていた。 情けなくなんかない、そう言いたかったのだが、言葉が出なかった。 けれども、ミカゲには伝わっているのだろう、私の指が少しだけ震えているから。 「試験じゃ何度もお前らに命を救われているけど、今回は俺だって良いとこ見せたもんね!」 「うん、ミカゲ格好よかったよ」 「!ありがとな…」 ミカゲは嬉しそうに笑った後、テイトを見て微笑みを零した。 「まさかお前があのシュリを助けるなんて思わなかったぜ、さすがのあいつも形無しだな」 「ち、違うよ、あれは体が勝手に動いただけで…」 「照れなくてもいいのに…」 「本当にな!大親友、お前のことを誇りに思ってるんだぜ、な!」 「うん、やっぱりテイトは優しいね」 私とミカゲは顔を見合わせて微笑んだ。 私たちの大親友は、とても優しい心を持っている、それが誇らしかった。 テイトの頬に朱を指しながら、照れくさそうに頬を緩めた。 「…なぁ、ミカゲ、キアラ」 「なに?」 「俺が奴隷だったの、知ってるよな?」 私は言葉に詰まり、静かに視線を床に落とした。 知ってるも何も、私は気付けばテイトの隣に、物心ついた時からいたのだ。 テイトが奴隷だったのも、私がテイトと同じような扱いをされていたのも、幼い頃からの当たり前の日常だった。 テイトは私の顔をちらりと視界に入れてから話し始めた。 「奴隷っていっても、戦闘用の奴隷でさ、物心ついた頃には軍に買われてて…、俺は家族の愛情なんて知らない」 それは、私にも言えることだった。 記憶もない、家族もいない、そんな私に愛を教えてくれる人なんていなかった。 だから私は、愛を知らない。 愛情を知らない、優しさを知らない、抱きしめてくれる腕の強さも、他人の体温の温かさも、知らない。 「でも、ミカゲを、キアラを親友だと思えることって、なんか、そういうのに似てるのかなって…」 「テイト…」 そう、なのだろうか。 友愛と家族愛は、似ているのだろうか。 そんなことを考え、ふと顔を上げると、ミカゲが大粒の涙をぽろぽろと惜しみなく零していた。 「ミ、ミカゲ?!」 「バカヤロー!泣かすんじゃねぇよ!急にすげぇこと言われたらリアクションに困るだろ!」 ミカゲは流れる涙を袖で拭く。 テイトの言葉を聞いて、嬉しくて泣いたんだろうか。 泣く、か。 悲しくて泣くのと、嬉しくて泣くのと、何が違うのかも分からない。 そんな私は欠陥品なのだろうか。 「でも、お前からそんなこと話してくれたの初めてだから、すっげぇ嬉しい…、よし!親友の誓いを立てよう!」 ミカゲはずいっとこぶしを私とテイトの間に突き出した。 「もし戦場でピンチになっても、俺はお前らを見捨てたりしない!神に誓って死ぬ時はいっしょだ!」 「う、うん!」 テイトは戸惑いながらも、ミカゲと拳を合わせた。 そして2人は私を見つめる。 その目は透き通っているかのように綺麗で、私とは違って見えた。 「ほら、キアラも!」 「…うん」 神様。 私はこの2人とは一緒に死ねません。 もし、そんな危機が訪れるのなら、私が大好きな親友を守って死にます。 そう、心に誓いをたてた。 *2015/12/24 |