授業が終わり、私たち3人は廊下へと繰り出した。 ガラス張りとなっている壁一面からは要塞が存在感を顕にし、そこに鎮座している。 ミカゲはその要塞を澄み切った目に入れ、キラキラと瞳を輝かせた。 その顔はどこか無垢な少年のようで、見ていて微笑ましかった。 「俺たちも卒業試験に合格できたら、あそこにいけるんだな!」 「そうだね…」 そんなミカゲを微笑ましく見ていると、テイトが辛そうな顔をして俯いていることに気付いた。 どうかしたのだろうかと気になり、声をかけようとした瞬間、テイトが重々しく一文字に閉じていた口を開いた。 「ミカゲ、キアラ、やっぱりもう俺に構うな」 そう言い放ったテイトの顔はどこか寂しげで、まるで涙を堪えているかのように辛そうだった。 「何故…?」 「俺と一緒にいたら、お前らまで…」 テイトは再び俯いてしまった。 お前らまで、ということは私たちの身を案じてそう言っているのだろう。 テイトは優しい。 仏頂面で、どことなく雰囲気が冷たいが本当はそんなことはない。 人との関わり方がまた希薄なのだ。 だから周りの人はテイトの優しさに気づけない。 「私は嫌」 そう言い切ると、テイトは驚いたように顔を勢いよくあげ、目を見開く。 そんなテイトの表情を見て、私は出来るだけ柔らかく微笑んだ。 「私は、テイトだから一緒にいたい、周りの人がなんて言おうと、テイトはテイトだから、側にいたい…」 私がそう言葉にすると、テイトはその綺麗なエメラルドのような瞳を潤ませた。 そんなテイトの頭を、ミカゲはわしゃわしゃとなでた。 こんな光景も、明日で最後かも知れない。 そう思うと、何だか心にぽっかりと穴が開くような、そんな喪失感が胸を占める。 「私、テイトとミカゲと一緒にいられて、良かった…」 そう口にすると、テイトとミカゲはピタリと動きを止め、私の頭を優しく撫でてくれた。 その手つきはまるで壊れ物を大事に触れるかのように繊細で、目をつむり、その感触を楽しんだ。 「俺も、お前らと居れて良かったぜ!」 ミカゲがにかりと笑う。 なんだかまだ卒業試験にも受かっていないのに、最早卒業するかのような私たちの言動に、何故か面白くなってしまい、ふっと笑みをこぼした。 「明日、卒業試験だから、練習しに行こうか」 「そうだな!中庭行こうぜ!」 「…そうだな」 ミカゲの提案に、私たちは頷いた。 テイトも柔らかく微笑んでくれて、私は嬉しくなった。 テイトとは、物心が付く前から一緒にいた気がする。 幼い頃の記憶はないが、気づいたらテイトの隣にいたのだ。 私は知っている、ミカゲと出会えたお陰で、テイトの笑顔が増えたことを。 「おーい、キアラ、行くぞー!」 「うん、今行く」 ミカゲの隣で笑うテイト、そんな2人を見ているのが、私は大好きで、幸せな時間だった。 明日の卒業試験を頑張って、出来ればまた、3人で。 そんな淡い期待を抱きながら中庭に向かった。 *2015/11/23 (修正)2015/12/17 |