ラララ存在証明 | ナノ

  ぬるまゆみたいな温度に浸かる


私は両親と血が繋がっていない。その事実を告げられたのは5歳の頃だった。本当の両親は鬼によって殺されてしまったらしい。血の繋がりがないとはいえ、私を実の子供のように愛してくれた育ての親の子供で、本当に私は恵まれているなあと思っていた。幸せだと思っていた。______あの日までは。



私と無一郎とその双子の兄・有一郎くんが出会ったのは、私が真実を告げられた翌年の頃だった。その頃の私は、自分自身の体のことについて知ったことや、鬼殺隊の柱として活躍していた育ての母親が殉職したショックなども重なり、誰も信じることが出来ず、塞ぎ込んでいた。私の父親は鬼殺隊に所属する医者で、時折町に出ては一般の方の治療に当たっていて、無一郎の母親はその患者だった。そんな私を見兼ねた父親が、無一郎たちの母親に頼み、無一郎たちに私と友達になって欲しいと頼み込んだらしい。

「…生まれて来なければ良かった。」

親の悪いところばっかり受け継いでしまったなあと、困ったように笑う父親の顔を見るのが、とても辛かった。悲しい現実に打ちひしがれ、いつも泣いていた私の涙を拭ってくれたのは無一郎だった。

「そんな悲しい事言わないで。僕は薫と友達になれて、すごく嬉しいよ。」

塞ぎ込んでいた私を叱咤したのは、有一郎くんだった。

「泣くと不細工だって言っただろう。この泣き虫」
「兄さん!そんな言い方するなよ。」

優しい無一郎と厳しい有一郎くん。私はそんな2人が大好きだった。2人のおかげで、頑張って生きようと思ったし、幸せな感情をたくさん教えてもらった。私にとって2人は特別なのだ。______今までも、これからも。

















...

鎹烏の足に括り付けていた紙に任務の詳細が書かれており、私はそれを一瞥しながら目の前を飛ぶ烏を追いかける。やがて煉獄さんの姿が目に入ったところで、鎹烏は姿を消した。少しあがった呼吸を整え、その背に話しかける。

「…すみません、煉獄さん。お待たせしてしまいましたか?」
「うむ!問題ない!俺も今来たところだ!」

ほっと肩を落とすと、煉獄さんがジトーっとこちらを見つめていた。一体なんだろうと首を傾げると、ワシャワシャと乱暴に頭を撫でられる。

「顔色が良くないな!」
「ああ…ただの貧血です…」
「それはいかんな!よし!列車に乗ったら、俺が弁当を奢ってやろう!前々から思っていたんだが、樋野はもっと食った方が良い!!」

似たようなことを昨日伊黒さんにも言われたなと思い返していると、行くぞ!と煉獄さんに腕を引かれる。列車に乗り込み、2人分が空いている席に腰を下ろすと、煉獄さんは早速弁当を頼みに行ってしまった。本当に面倒見が良い人だ。隊員たちが、皆、煉獄さんのことを慕うのも頷ける。

「待たせたな!ほら!たんとお食べ!」

ずいっと私に弁当を差し出すと、私の横に再び煉獄さんは腰を下ろした。うまいうまいと弁当をかき込んでいる姿を見て、もう少しゆっくり食べたら良いのに、と思ってしまう。

「今回の任務の詳細ってもう聞きました?」

鎹烏に付いていた任務の詳細が書かれていた紙を煉獄さんに差し出す。煉獄さんは、口の中の物を飲み込んで、箸を一度置いてから、それを受け取って目を通してくれた。

「うむ!俺もここに書いていることは、全て聞いているな!」
「そうですか。」

この短期間のうちに、この汽車で40人以上の人が行方不明となっていると聞く。鬼殺隊は数名の剣士を送ったが、全員消息を経ってしまった。だから柱である煉獄さんと私が呼ばれたのだ。

「怪我人は出したくないな!」
「そうですね。」
「今日はよろしく頼む!」
「もちろんです。この私が来た以上、絶対に死者は出しません。」

私たちは頷き合うと、再び、自分たちの弁当に箸を伸ばした。うまいうまいと咀嚼する度に声を上げる煉獄さんを見ながら、私は無理矢理胃の中に食べ物を詰め込んでいった。そうしていると、何やら3つの視線を感じて、そちらの方に目を向けると、こちらを見つめている隊員たちがいることに気がついた。自分とあまり歳の変わらないであろう少年3人が、私たちの方へ向かって来る。その真ん中にいたのは、先日の会議で裁判にかけられそうになった炭治郎くんだった。

「君たち…どうして此処「うまい!!」…ちょ、煉獄さん!」

煉獄さんは、彼等に気付いているのかいないのか。多分気付いてはいるのだろうが、今は弁当に夢中だ。

「あ…もう…それは分かりました」

困ったように笑った炭治郎くんを見て、苦笑する。ごめんね、私にはどうすることもできないよ。私は彼等に近くに座るように促すと、彼等はヘコヘコと頭を下げながら、近くの座席に腰を下ろした。

「そんなに頭を下げなくて良いのに。多分私たち同じ歳だし。」

猪の被り物?をした男の子が、私に向かって誰だお前というような視線を寄越してきた。その横で炭治郎くんは煉獄さんに何やらお話があったようで、ヒノカミ神楽について知っているか?と問うている。

「はじめまして、猪の被り物をした人と金髪の人。私は、樋野薫。よろしくね。」
「おう!子分にしてやっても良いぞ!」
「伊之助!!その人は柱だよ!!香柱さん!」

とても自信家な子だなーと、伊之助くんと呼ばれた男の子を眺めていると、その近くに座っていた金髪の子が声を上げた。

「ぎゃーーー!!可愛い可愛い可愛い何あの子!!なんなの!女の子の柱はみんな美人なの!!?」
「ああ…しのぶさんや蜜璃さん美人だよねー…」

蟲柱のしのぶさんは、私同様に医学知識に長ける人で、よく薬の調合や研究について話したりする。最近は色々と事情が重なって行けてないのだけれど。恋柱の蜜璃さんは、元師範である伊黒さんが親しくしていたのもあり、柱になる前から親しくさせてもらっている。もし私に姉がいたら、あの人たちのような人がいいなと思う。

「樋野も可愛いと思うぞ!」
「ありがとうございます。お話終わったんですか?」
「うむ!」

再び私の頭を煉獄さんはワシャワシャと撫でる。それを見た金髪の男の子がすごい形相をしていたのは気にしないでおこう。

「うおおおおおお!すげェ速い!」

伊之助くんは、どうやら列車に乗ったのが初めてだったようで、窓から身を乗り出して、外を眺めていた。それを、危ないぞ!と煉獄さんが咎める。

「危険だぞ!いつ鬼が出て来るかわからないんだ!」
「え?嘘でしょ鬼出るんですかこの列車!」
「出る!!」

キリッと告げた煉獄さんは、私たちに当てられた任務の内容を、彼等に簡単に説明した。それを聞いた途端、真っ青な顔で金髪くんは叫び出す。どうやら、伊之助くんとは正反対で、彼はとても臆病なようだ。

「切符…拝見致します…」
「!!」

深く帽子を被った車掌さんが、突如として現れて、びくりと背中が跳ねた。私はその様子を伺いながら切符を差し出す。とても嫌な気配があちこちから漂っている。

「拝見…しました…」

(後ろだ!!!)

周りから感じる小さな気配に紛れて、この車掌さんの真後ろから大きな何かを感じる。それは煉獄さんも同じだったようで、私たちは同時に立ち上がった。一瞬混ざり合った視線で、お互いの意図を汲み取る。

「車掌さん!危険だから下がってくれ!火急のこと故、帯刀は不問にしていただきたい!」

現れた鬼に切り掛かった煉獄さんを一瞥し、私は周りを注視する。周りを取り囲むこの変な気配はなんだろうか。あの鬼が何か放っているのだろうか。考えても出てこない答えに思考を張り巡らせていると、煉獄さんが鬼を退治したようで、その気配も無くなってしまった。

「…?」

炭治郎くんたちは煉獄さんに駆け寄り、凄い凄いと持て囃した。

「凄いぜ兄貴!俺を弟子にしてください!」
「良いとも!!」

あまりにアッサリしすぎな気がして、不安が拭えない。安心しきった彼等の表情を見ても、それが消えることはなかった。急に痛み出したこめかみを抑えて、ゆっくりと座席に腰を下ろす。ふう…と息を整えながら、外を眺めていると、急に眠気が襲って来た。それに抗うことは出来ず。ゆっくりと夢の中へと落ちていった。

 



20200423




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