ラララ存在証明 | ナノ

  もう1度だけ、名を呼んで。


暗闇の中、光を求めて天へと手を伸ばす。頭に鳴り響く声が、とても気持ち悪い。

______薫、みんな死んでしまったよ。

嘘だ。心がそう否定した。どことなく確証があった。

______共に永遠に生きよう。そうすれば、たくさんの人を助けられるよ。

偉大な医者といて。別に、偉大になんてならなくて良い。鬼になると言う事は、それだけで、誰かの犠牲が発生するのだ。死んでいい人なんて、いない。そう教えくれたのは、他ならず、お父さまではないですか。

「薫。戻ってきて、薫」

愛しい声が、私の名前を呼んでいる。どこからだろう?必死に辺りを見渡すのに、真っ暗闇が広がる視界には、写ってくれない。今までに感じたことのない恐怖が、私を支配していく。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、フルフルと頭を横に振った。すると、何者かに抱きしめられる。

「離してっ!嫌、いやっ!」
「薫。」
「!」

とても、懐かしい声だった。その声で、自分の名前を呼んでもらう事は、もう2度と叶わないと思っていた。そんな声。

「…ゆう君。」

姿は見えないけれど、私には分かる。私の大切な、もう1人の幼馴染。ポロポロと目から雫が落ちていく。

「はっ、また泣いてるのかグズ。相変わらず泣いた顔は不細工だな。」

私も、その背に腕を回した。それが不思議と温かく感じて、私に安心感を与える。

「有一郎君っ!」
「約束、守れよ」
「分かってる、分かってるよ。頑張る。絶対に守るから、そうしたら、いつか、」

いつか側に行ったとき、褒めてくれるだろうか。

「阿保。何で俺が褒めなきゃならねーんだ。褒められるために、やってんのか。」
「だ、だって……!」
「褒める必要なんか、ないだろ。あいつが側にいるなら。」

思い浮かぶのは、無一郎の優しい笑顔。落ち着きのある澄んだ声が、いつだって私に幸せを与えてくれる。生まれて来なければ良かったと、涙した夜に、私に大切なことを教えてくれた人。

「ゆう君、会いたかった。」
「俺は、会いたくなかったがな。ほんと、世話が焼ける奴。」
「ごめんね、私があの時、」
「あぁ、誰かさんは自分の血を飲ませて、俺の怪我が治ったと勘違いしてたがな。ま、おかげで、お前の初めてだけは、俺のものだろう。」

ククっと喉元が鳴った。何のことだろうか、と首を傾げるが、”初めて””血を飲ませた”と言う言葉を頼りに、あの日に想いを馳せる。

「なっ、」
「馬鹿みたいに笑えよ、薫。それで、阿保みたいに前向きな言葉を並べてろ。能天気なところがお前の取り柄だろ。」
「なんか、褒められてる気がしないんだけど。」
「最上級の褒め言葉だ。行くぞ。」

背中に回っていた腕が、いつの間にか私の左手を握る。私は力強く握り返した。何処に行くかなんて、分かりきっている。

「ねえ、ゆう君。ゆう君は、幸せだった?」
「は?」
「私は、ゆう君と無一郎と出会えたことが、私の人生において、何よりも幸せなことなんだと思う。」

育ての親にも恵まれたけれど。私と言う存在が、この世界を生きていくために、彼らはきっと必要不可欠だった。

「だから、ずっとずっと、一緒にいたかった。」

もう叶わない未来が、私の心に闇を落とす。そんな私に、使命として約束を告げた彼。

「ハッ。俺はな、待つ事は得意なんだ。」
「?」
「お前らがこっち来たら、俺を楽しませてくれるんだろ。」
「………え、」

そうして、また3人で手を取り合って。それから、来世と呼ばれる世界に足を踏み入れたら、今度は3人一緒にいよう。

「お前らがいる限り、俺は消えない。」
「………ゆう君、」
「お前らは、俺が生きた証。」

______薫、好きだよ薫。

「ほら、もう1人の泣き虫が呼んでる。」

______戻ってきて、僕のそばに。薫

「行ってこい。」

“またな”

コクリと頷くと、視界が清明になっていく。鼻を掠めた血の匂いと、私を抱きしめる逞しい体が、私を現実へと導いていった。




20200621

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