ラララ存在証明 | ナノ

  記憶のかけら


しのぶさんに本当のことを話して以来、彼女から調合してもらった薬を服用し続けて、約2週間くらいだろうか。調子が良い。微熱は続いているけれど、刀を振るうには申し分もないと思う。血痰を吐くことも減ったし、呼吸苦や胸痛も見られない。医学に精通しているとは言え、薬学に関しては、私よりもしのぶさんの方が上手なんだなと痛感させられた。刀鍛冶の里に来て丁度1週間。炭治郎くんはあの後自力で目を覚まして、今は、何やら修行をしているらしい。そして私はと言えば、頂いていた薬も全部飲み終えて、明日から任務に行っても良いという許可が出た。なので、私の刀を担当してくださっている鉄穴森さんを探しているのだけど、

「見つからない…」

なんで!!?と膝を落とす。私何かしてしまっただろうか?愛刀は粉々になってしまったけれど、自分の体よりかは大事にしていた自信があるので、怒らしてしまっているわけではないと思うのだけど。

「あれ…えっと、薫ちゃん…」
「む…時透くん…まだ此処にいたの?」
「担当の刀鍛冶が見つからなくて…早く刀を貰って帰りたいんだけど…」

心底困ったという風に眉を八の字にした無一郎。

「ああ…鉄井戸さん亡くなられたから…」
「鉄井戸さん?」
「時透くんの前の刀鍛冶だった人だよ。」
「へえ…よく知ってるね…」
「私も少しお世話になったからね。」

______儂はあの坊やのことも心配じゃが、お嬢ちゃんのことも心配じゃよ。

「時透くんの新しい刀鍛冶はなんて名前の人?」
「えーっと、何だったかな…えっと…」

無一郎は、懐から紙を取り出した。

「ああ、鉄穴森だ…」
「え、」
「え?」
「私と同じ人…私も今その人を探してるの」
「そうなんだ。凄い偶然………一緒に探す?」
「う、うん。」

柱の時間は貴重だから、早いところ見つけないとね、無一郎はそう言って優しく微笑んだ。久しぶりに見る彼のその表情に、胸が高鳴る。でも、多分彼は別行動を提案するだろうなって思った。昔の無一郎だったら、違ったかもしれないけど。今の無一郎は、多分。そう思って俯いていると、

「…行こうか。」
「へ!?」

グイッと左手を引かれた。久しぶりに繋がれた手のひらを思わず凝視してしまう。

「ごめん、嫌だった?」
「…そうじゃなくて、てっきり別々に探すと思ったから。二手に分かれたほうが効率も良いだろうし…」

どちらか一方が見つけたら、鴉を使って知らせれば良いだけのことだ。私の発言に、あ…と無一郎は零す。

「時透くん?」
「…、?何でだろう。何故だか分からないけど、君と一緒にいないといけないと思ったんだ。」

無一郎はそう言ってこめかみを抑えた。

「頭痛いの?大丈夫?見せて!」

髪を撫でるようにしてかき分け、頭部をくまなく調べる。良かった、外傷は無さそうだ。

「何処かで頭打った?」
「ううん…」
「吐き気は?」
「無いよ」

念のため脈拍と呼吸数も調べたが正常値で、額に手を伸ばして体温を測ってみたが、熱は無さそうだ。

「…樋野さん、近い。」
「、!ごめん!!つい!!」

パッと慌てて手を離す。医者の卵でもあるもので、こういうのは気になってしまうのだと、言い訳のように捲し立てた。

「………なんだろう、前に似たようなことがあった気がする。いつだったかな…えっと……、…思い出せない……」
「!」

頭を抱えて蹲ってしまう無一郎。その様子が何処か苦しげで、私は思わずその体を包み込んだ。

「無理して思い出さなくて良いよ。何でも直ぐ忘れることは、すごく怖いよね。私はそういうのになったことがないから、気持ちは分かってあげられない…。その代わりに、私がちゃんと覚えてるよ。」
「…え?」
「時透くんとの思い出、ちゃんと私が覚えてるから。思い出したいって思ってるのかもしれないけど、時透くんが苦しむくらいなら、私のこと思い出せなくても良いんだよ。どっちの時透くんも、私は大好きだから。」
「樋野さん…もしかして僕等は、鬼殺隊に入る前からの知り合いなの…?」

不安そうに揺れる瞳。お願いだから、そんな顔をしないで欲しい。無一郎のそんな顔が見たいわけじゃない。

「どうだろうね。はい、もう行こう。」

これ以上苦しまないで欲しいから、私のことは思い出せなくても良いんだよ。有一郎くんのことだって、私がきちんと覚えてるから。これ以上、大事な物が壊れてしまわないように。力強くその手を握って歩き出した。しばらく屋敷内を歩いていると、人の気配を感じた。それは無一郎も同じだったようで、障子を開けて部屋の中に入ると、そこには畳に寝転がり寝息を立てている炭治郎くんがいた。

「ちょ、時透くん!」

無一郎は、あろうことかその炭治郎くんの鼻をつまんだ。そのせいで起きてしまった炭治郎くんに、私は慌てて謝罪をした。本当に、こういう時に容赦ないところは有一郎くんにそっくりだ。

「鉄穴森っていう刀鍛冶知らない?」
「わあ、時透くん!今俺の鼻つまんだ?」
「つまんだ、反応が鈍すぎると思う」
「コラ!時透くん!ごめんね、炭治郎くん…」

悪気はないと思うんだ。早く自分の刀を貰いたくて焦ってるだけだと思うんだ、多分。

「いやいや!敵意があれば気付きますよそりゃ!」
「まあ、敵意を持って鼻はつままないけど。」
「鉄穴森さんは知ってるけど、どうしたの…?多分、鋼鐵塚さんと一緒にいるんじゃないかな?」
「鉄穴森は僕の新しい刀鍛冶。後、樋野さんも。鋼鐵塚はどこにいるの?」
「一緒に探そうか?」

当たり前のように炭治郎くんが口にした言葉に、無一郎は首を傾げた。なんで、そんなに人に構うの?と。今の無一郎からしたら、新人隊士の炭治郎くんたちは、そんな暇が有れば鍛錬しなよって思うんだろうなあ。

「君には君のやるべきことがあるんじゃないの?」
「人のためにすることは、結局、巡り巡って自分の為にもなっているものだし…」
「「………!!」」

______人のためにすることは巡り巡って自分のためになるんだよ

「それに、俺も行こうと思っていたから丁度良いんだよ。」

ああ、どうしてこんなにも似ているんだろうか。炭治郎くんのさっきの言葉は、昔、無一郎が私に言ってくれた言葉だ。その言葉を無一郎は、自身の父親から聞いたと言っていた。炭治郎くんと一緒にいると、昔の懐かしくて暖かな思い出が蘇る。もちろん、幸せなことばかりじゃないけれど、私にとって、それはとても大切な記憶だ。ちらりと横にいた無一郎を見る。何処か落ち着かない様子だ。

______薫、無一郎はきっと大丈夫だよ。だから、君も強く心を持って。

「…ん?誰か来てます?」
「そうだね、」

廊下から、小さな音が聞こえた。それは足音のようで足音とは思えない、何かが来る、そう思った瞬間、障子が開いた。

「「「………」」」

一瞬目を疑った。衝撃だったのは、その気配のとぼけ方の巧さ。目視するまで鬼と気付がなかったのは、きっと私だけではないはずだ。位置的に鬼の目がよく見えないが、間違いない。これは…

"上弦の鬼だ"

そう認識した途端、私たちは瞬き1度にも満たない時間で戦闘態勢に入る。私は、愛刀が貰えるまでの間借りている刀を掴んだ。そして、一瞬だけ無一郎を視界に入れる。あの構えは多分、

「「"霞の呼吸 肆ノ型 移流斬り/香の呼吸 参ノ型 走馬灯」」

無一郎の動きに合わせて、それを補助する様に刀を振るった。だが、斬撃が当たることはない。想像していたよりも遥かに鬼の動きが速かった。

「やめてくれええええ。いじめないでくれええええ。」
「いや、こっちの台詞だよ!"香の呼吸 伍ノ型 薫水斬り"」
「"ヒノカミ神楽 陽華突"」

禰豆子ちゃんと炭治郎くんが共闘して鬼に斬りかかる。その隙に無一郎が動くのが見えた。

「"香の呼吸 陸ノ型 薫染流"、時透くん!」

今だよと合図を送る。それに頷いた無一郎は、刀を振り下ろし、鬼の頸を切り落とした。よし、と一息吐く。

「時透くん、薫ちゃん油断しないで!!」

上弦の鬼は頸を斬っても死なない場合がある。私のお見舞いに来てくれた宇髄さんが、そんなことを言っていたっけ。炭治郎くんの言葉が聞こえた瞬間、鬼が一体増えた。分裂したのだ。大きな葉っぱを持った一体が仰ぐようにして、それを私達に向けた瞬間。

ゴオオオオオオッ

大きな風が巻き起こったかと思えば、私はその場に留まることが出来ず、体が浮遊していくのを感じた。

「っ、」
「時透くん!薫ちゃん!」

不味い、バラバラにされてしまう。1番近くにいた無一郎の身体へと手を伸ばすが、それを掴むことは出来ず、私達は各々が別の方角へと飛ばされていってしまった。もうすぐ地面に落ちてしまう、なんとか受け身を取ろうとした瞬間、

______こっちへおいで。

「………!!」

久しぶりに聞こえてきた忌忌しい鬼の幻聴に動揺してしまい、上手く受け身をとることが出来ず、顔面から地面へと転げ落ちてしまう。

「む、いちろ…」

一瞬にして、視界が真っ暗に染まった。











20200508

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