ラララ存在証明 | ナノ

  何処かでなくした祈りのかけらを


______儂はあの坊やのことも心配じゃが、お嬢ちゃんのことも心配じゃよ。何かに取り憑かれたように、死に急いでいるようにも見える。その小さな体に、一体どれくらいの重いものを抱えているんだい?お前さんの刀が訴えとる。お前さんを助けて欲しいって。

私は、もう何も失いたくはないから。呪われた"血"が流れた私を、受け入れてくれた無一郎たちは、あの日から私の光だった。あの2人が笑って生きていてくれるだけでよかったのに。仲の良い二人のことが大好きだったのに。私が、壊してしまったから。せめてもの償いとして、有一郎くんの最期の願いを守らなきゃいけない。

______お前は自己犠牲がすぎる。

ネチネチといつも怒られてたっけ。継子だった期間は、僅か3ヶ月と短かったけれど、その言葉にずっとずっと気付かないふりをしてた。

______お前、無一郎のこと好きなんだろ。

見透かしたようにその言葉を吐いた有一郎くんは、何処か嬉しそうだったんだ。

______アイツの隣にお前が居てくれたら、俺は安心する。

その側に、貴方にいて欲しかったんだよ。どこまでも不器用で、でも、本当は優しい人。最期の最期まで、ずっとずっと優しいままだった。

______ねえ薫、僕のこと、まだ怖い?僕は薫のことをいじめた奴らとは違うよ。薫はとても優しい普通の女の子だから、怖くなんかないし化け物でもないよ。薫をいじめる奴らから、僕が守ってあげる。

______守られてばっかりは嫌だよ。私も無一郎のことが大好きだから、無一郎のこと守るもん。

______ありがとう薫。ずっと一緒にいようね。

ゆびきりげんまん 嘘ついたら…。














...

吉原の遊郭での上弦の陸との戦闘後、宇髄さんは柱を引退した。とは言え、柱が2人も欠けたことは、鬼殺隊にとっては大打撃だ。そんな中、柱である私は2ヶ月も意識が戻らなかったと聞くから、更に頭が痛くなる。

「あの…もう大丈夫なので…」
「その言葉を、私はもう信じられませんね。」
「うう…しのぶさん…」

困った。見舞いに来てくれた柱たちに助けを請うてみたりもしたものの、この際だからしっかり休めと、みんな口々に言うばかりだった。中でも、最近優しかった伊黒さんの当たりが強く、なかなか堪える。前からネチネチした人だったが、最近来るたびにネチネチと嫌味を言われるので堪ったものではない。その上、1番会いたい人が見舞いに来てくれないので、余計に気分が沈んでしまう。いや、彼はなんでも直ぐに忘れてしまうから仕方ないのだけど。今回の私の怪我も、聞いて直ぐに忘れてしまったのだろう。

「時透くんは、数日前から刀鍛冶の里に行かれているようですよ。」
「え、」

なんで私の考えてることが分かったんだと、しのぶさんを見つめる。

「貴女はとても分かりやすいですから。」
「う、」
「はい、呼吸音聴きますよー。」

胸にひんやりとした聴診器が当てられる。きっと肺雑音が聞こえるんだろうなと思いながら、しのぶさんの瞳を見つめた。

「ちゃんと言うことを聞いてくださったのですね。」
「私も医学に足を踏み入れた人間なので、しのぶさんの気持ちは分かりますから。」

意識が戻ってからの数日間、本当に大人しく過ごしていた。その効果が、こうも直ぐに出るとは思わなかったけれど。新しく作ったという薬の効果が出ているのかもしれない。おかげで、最近幻聴が落ち着いている気がする。

「あら、その上で無茶をなさっていたんですね?」
「怒らないでくださいよ。しのぶさんにだってあるでしょう?命に換えても守りたいもの」
「………さあ?…どうでしょうね。」

一瞬揺らいだ瞳は、何処か哀しそうだった。なんとも言えない空気を変えるように、しのぶさんは、パンッと両手のひらを合わせて、再び口を開いた。

「そろそろ貴女の刀の修理も終わる頃でしょう。久しぶりに身体を動かすために、受け取りに行かれては?…其処へ行くのは許可します。」
「しのぶさーーーーん!!」

ありがとうございます大好きですと、しのぶさんの腰に両腕を回して抱きついた。藤の花の匂いが鼻を掠めて、心が落ち着いていくのを感じる。

「隠を呼んでおきますので、支度をしてきてください。それから、此方は1週間分のお薬です。」
「あ、ありがとうございます。」
「くれぐれも!無理しないでくださいね?」
「はい…」

笑顔の圧がとても怖い。私は善処しますと告げて、寝巻きから隊服に着替えて蝶屋敷を後にした。しのぶさんから言われた場所に着くと、其処には隠が2人と、見たことのある市松模様の羽織を着た隊士がいた。

「炭治郎くん?」
「あ!樋野さん!お久しぶりです。」
「もう!敬語じゃなくていいよ!私たち同じ年だし!呼び方も薫で良いよ!それよりも、こんなところでどうしたの?」

話を伺うと、炭治郎くんは担当してくれている刀鍛冶の方を怒らせてしまったらしく、彼の刀が届かないので、里に行ってみることにしたのだと言う。その時に私も行くことを聞いたので、一緒に向かうことになって、待っていたのだと教えてくれた。刀鍛冶の里は、鬼に襲撃されるのを避ける為に秘密裏にされている。場所は柱である私たちも知らなくて、其処へ行くのは伝言を伝え回るかのように、隠に運んでもらうしかないのだ。その隠たちも、鎹烏を追いかけて、次の人に交代を繰り返すので、その場所は知らない。こうして刀鍛冶の身の安全が守られているのである。要するは、同じところにいた人間が同じ場所に向かうのならば、一緒に向かった方が隠の仕事が楽になるのだ。

「待たせちゃってごめんね。背負ってるのは、妹さんかな?こんにちは。」

禰豆子ちゃんが入っていると思われる箱をそっと撫でると、カリカリと小さな音が響いた。

「多分、こんにちはって返してるんだと思う。」
「そっか。」
「薫ちゃんは、禰豆子について何も言わないんだね。」
「え?」
「ああ!俺昔から鼻が良くて、人の感情が分かるんだ。それで。」
「成る程。無限列車の闘いで助けられたからかな。認めてるよ、貴女たちのこと。」

それに、私も似たようなものだからなぁ…と口に出しかけて、呑み込んだ。

「薫ちゃんは、何処か身体が悪いのか?」
「え?怪我ならもうだいぶ良いよ。」
「いや…無限列車の時から、ずっと苦しそうな匂いがしてたから、」
「今も?」
「う、うん…」
「…これは隠せそうもないなあ。…ちょっとね、身体の調子が良くないの。だけど、大丈夫。一応これでも医学かじってるんだよ私!しのぶさんに見てもらってるし、心配しないで。」

心配そうな顔をした炭治郎くんに、力強く頷いて見せたが、それでも彼は眉を下げて、此方を見つめるだけだった。その姿が、幼い頃の無一郎に重なる。

______無理をしないで、薫。

「そろそろ行こうか。案内役さん、よろしくお願いしますね。」

その面影を否定するように、私は自分自身で目隠しをして、耳栓をする。そして、私のことを背負ってくれるという隠に、身を委ねた。


















...

「おはよう、炭治郎くん。昨日はありがとうね。」

刀鍛冶の里に行く道中で、私は深く眠っていたようで、隠や炭治郎くんにとても心配をかけてしまったらしい。時折、ヒューヒューと喘鳴も出ていたというから驚きだ。私は久しぶりに人肌に触れた状態で眠っていたこともあり、悪夢を見ることなく休めたというのに。里に着いて、長にご挨拶した後も、ずーっと心配してくれていた。

「薫ちゃん、少し熱があるんじゃないか?」

炭治郎くんのひんやりとした手が、私の額に触れた。その姿が、また無一郎と重なって見える。炭治郎くんは、どことなく無一郎に似ている節がある。否、無一郎の父親だ。赤い瞳と、その優しげな雰囲気がとてもよく似ている。だから、炭治郎くんを見ると無一郎の姿が過るんだなと、納得した。

「………微熱は前からずっと続いてたから、気にしないで。」
「前からって?」
「炭治郎くんに出会う、ずっと前だよ。たしか、柱になったくらいの時からかな。無理して任務に出てよく、伊黒さんに怒られてた。」
「伊黒さんって、蛇柱の?」
「うん。伊黒さんは、私の元師範なの。じゃあ、私はそろそろ行くね。」

今日は、炭治郎くんとは別行動だ。彼の担当の刀鍛冶と私の担当の刀鍛冶は同じ人ではないし、私は無一郎を探したいから。

______おかえりって言って欲しい。

私のお願いなんて、きっと覚えていないのだろうけど、それでも良いのだ。顔が見れるだけで安心するし、声を聞くだけで元気になれるから。せっかく出来た休暇は、私の好きに使いたい。

「良かったら途中まで一緒に行かないか?」

眉を八の字に下げた炭治郎くんからは、心配しているという感情がひしひしと伝わってくる。

「うーん………」
「あ、無理ならいいんだ。柱の人には、言えない用事とかもあるのかもしれないし…」
「あー、」

そういう訳ではないのだけど。そもそもの目的が違うので、私といると炭治郎くんの時間が無駄になってしまう気がして申し訳ないのだ。彼は一刻も早く担当の方に会って、新しい刀を貰いたいだろう。一方の私は、しのぶさんから刀を抜くことを許可されていないし、休養も兼ねて此処を訪れている状態なのだ。そう告げようと思った時、

「どっか行けよ!!何があっても鍵は渡さない!!」

何やら人が揉める声が聞こえてきた。その視線を辿っていくと、まさしく探していた人物が、ひょっとこのお面をした少年と言い争う様子が目に入ったため、頭を抱える。

______泣くと不細工だって言っただろう。

「やめろー!!何してるんだ!!手を離せ!!」
「声がとてもうるさい…誰?あ、樋野さん。」
「こんにちは、時透くん。」
「うん、こんにちは。」

今日は、私のことを直ぐ認識出来る日だったようだ。その事にこうも簡単に胸が高鳴るのだから、私って本当に単純なやつだろうか。 

「君が手を離しなよ。」

華麗な体術で炭治郎くんを圧倒した無一郎は、いとも簡単に彼からの拘束を解いた。

「すごく弱いね。よく鬼殺隊に入れたな。ん?その箱変な感じがする…」

禰豆子ちゃんが入っている箱に気づいた無一郎が、その箱に触れようとすると炭治郎くんが物凄い速さで無一郎の手を引っ叩いた。すると、彼の興味は直ぐに薄れたようで、持っていた鍵のような物を炭治郎くんに取られて、否、正しくは多分取り返されたのだろうけど、視線が若干残念そうに揺れていた。炭治郎くんは、無一郎と揉めていた少年を心配していたが、そちらの少年も興奮しているのか、無一郎を罵倒し続けた。

「誰にも渡さない!!拷問されたって、絶対に。"あれ"はもう次で壊れる。」
「拷問の訓練受けてるの?大人だって殆ど耐えられないのに、度を超えて頭が悪い子みたいだね。壊れるから何?また作ったら?君がそうやってくだらないことをぐだぐだぐだぐだ言ってる間に、何人死ぬと思ってる訳?」
「と、時透くん!!言い過ぎだよ!」
「これくらい言わなきゃコイツらには分からないんだよ、樋野さん。柱の邪魔をするっていうのはそういうことだよ。柱の時間と君たちの時間は、全く価値が違う。」

______お前は自己犠牲が過ぎる。

その言葉は、チクリと私の胸も突き刺した。

「こう…なんかこう…すごく嫌!何だろう!配慮かな!?配慮が欠けていて残酷です!」

そんな無一郎に怯みもせず、炭治郎くんは言い返す。

「正しいです!貴方の言ってることは、概ね正しいんだろうけど、間違ってないんだろうけど、刀鍛冶は重要で大事な仕事です。だって実際、刀を打ってもらえなかったら、俺たち何も出来ないですよね?剣士と刀鍛冶は、お互いがお互いを必要としています。戦ってるのはどちらも同じです!」

だけど、その言葉が無一郎に届くことはなかった。

「悪いけど、くだらない話に付き合ってる暇ないんだよね。」

ドンと、無一郎は炭治郎くんの頸に突き入れる。倒れた炭治郎くんから鍵を奪い取ると、その場を後にしてしまった。私は炭治郎くんの身体を隅々まで調べた後、仰向けに寝かせてあげる。気を失っているだけなようだ。

「時透くんがごめんね。悪い子じゃないんだ。人よりも責任感が強くて、そのせいで周りに当たりが強い時があるの。だけどね、本当は誰よりも優しい人なんだ。本当に本当に優しい人なんだよ…。」

私の言葉はきっと、少年には届かないだろう。だけど、言わずにはいられなかった。大きな溜息を吐いた後、立ち上がる。流石に私では炭治郎くんを運ぶことは出来ないので、少年に炭治郎くんを診ていてもらうよう頼んだ。

「私は人を呼んでくるよ。何かあったら言ってね。」

ピーっと指笛を吹くと、私の鎹烏が飛んできて、私の頭上を舞う。

「この子たちをお願い。何かあったら教えて。」

流石、私の鴉。直ぐに意図を汲んでくれる。頼もしき相棒に2人を任せて、私はその場を後にした。













20200508




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