ラララ存在証明 | ナノ

  最愛を知った後の結末


ごめんね…ごめんね…薫…。
助けて貰わなくても良かったって、あのまま死んでしまっても良かったって、貴女は言うかもしれないけれど、母は貴女に生きていて欲しいのです。コレは一種の"呪い"と同じです。それでも、それでもきっと、貴女のことを好きだと言ってくれる人が現れるから。そう言ってくれる人を大事に生きていくのです。どうか、どうか幸せになって。




「鬼の血がまざってる…?」



5歳の誕生日を迎えた日、私は母親にそう告げられた。そして、私たちは血が繋がっていないと言うことも。

「薫は鬼とは何か、分かりますね?」
「はい。お母さまは、鬼というばけものから人々をまもるために、がんばってるから。」
「そうです。まだ、たった5つの貴女にこのお話を…真実を告げることを、どうか許してください。」

明日もどうなるか分からない身ですから、そう言って微笑んだ母親は、とても優しい顔をしていた気がする。そして、私の髪を撫でる母親からは、愛情が伝わってきた。

「貴女の本当のお母さんは、貴女にもう直ぐ会えるくらいの頃に、鬼にされていたのです。貴女の本当のお父さんは、お母さんに喰われて、私が到着した時には、既に死んでいました。私が柱になった年の初めての任務でした。」

19歳で柱となった母親は、父親からの求婚を断っていたと聞く。

「今でも忘れません。鬼となってしまった貴女の本当のお母さんは、鬼の弱点である頸ではなく、ずっとお腹を守っていました。そこで気付いたのです、この鬼の腹の中には赤子がいる。もしかしたら、この子だけでも助けられるのではないかと。」

その勘は当たっていたようで、切り刻んだ女鬼(本当の母親)から、私が産声を上げて出てきた。日の光を浴びても問題なかった私を、直ぐ様屋敷に連れて帰り、お館様にこの話をしたと言う。それを機に、わたしの育ての両親は結婚したらしい。

「ですが、鬼となってしまった貴女の本当のお母さんと貴女は、数分ですが臍で繋がっていました。私の判断が後少し遅ければ、貴女は人間ではなかったでしょう。」

鬼となってしまった母親から受け継いでしまった血。他の子供達に比べて、怪我の治りが速いのはこの為のようだ。

「貴女は、極少量の鬼の血が流れていて、尚且つ人間として存在している稀有な存在なのです。」
「………ねえ、お母さま?」
「なんですか?」
「私はこれからも人として生きられる?」

時々、夢を見た。

______こっちへ来なさい。

聞いたこともない男の人の声。誰が呼んでいるか分からない。だけど、私は"此方"にいては行けないのだと、恐ろしい怒声で吠えている。そんな、声。

「薫はとても聡い子です。貴女が、その優しい心を捨てなければ、きっと大丈夫ですよ。」

そう言って抱きしめてくれた母親。これが私が記憶している生きている母親の最後の姿だった。

「お父さま…」
「薫、お前のせいじゃない。泣くな。」
「わたしが、"異質"だから!鬼は私を狙ったの?わたしが生まれて来なければ、お母さまは死ななかったの?」
「薫、お母さんが死んだのは薫のせいじゃない。」
「でも!わたしのことを探してる鬼を退治しに行くって!!お母さまはそう言って任務に行ったもの!!」

ポロポロとこぼれ落ちる涙を拭う父親も、私と同じ顔をしていた。

「お母さんは、鬼殺隊の柱だった。そんなお母さんに惚れた時から、こんな日がいつか訪れるかもしれないと覚悟していたよ。凄いじゃないか、守りたいものを守るために散っていったけれど、心は繋がってるさ。」
「分からない!分からないよお父さま!どうして、どうして…」

涙が枯れてしまっても、潤うことはなかった。爪が食い込むくらいに握りしめた拳を開くと、少量の血液がこぼれ落ちる。それが畳を濡らしていったかと思えば、直ぐに落ちるのが止まり、傷まで塞がっていく。母親を殺した奴らと、同じ血が流れているのかと思うと、酷く憤りを感じた。

「薫…ちょっと手伝ってくれ。」

部屋に塞ぎ込むようになった私を、父親は町の巡回に連れていくようになった。見様見真似で父親がやっていることを町の人たちにすると、ありがとうと優しい顔で笑ってくれる。医者という職業の素晴らしさを知った。
鬼を滅するために命をかけて戦う人たちの力になりたい。私のような想いをする人が少しでも減れば良い、そう思った。だけど、呪いを背負っているような私が、そういう風に在りたいと思うのはいけないことかもしれない。そんなことを悩んでいる時に、無一郎達に出会った。

「ゴホッ…すみません、樋野先生、こんな山奥まで…」
「いえいえ、無理をなさらず。今はあまり話さないほうが良い。熱が高いのです。薫?お水をもらって来てくれないか?」
「え、」

苦しそうな顔をしている無一郎の母親から手が離せない様子の父親から、そう頼まれた。当時の私は、同年代の男の子が苦手だったので、自然と身体が強張る。

______化け物!!

すぐに怪我が治る私を、そう罵る彼ら達。大丈夫、ここに居る子はきっと優しい子だ。自分自身にそう言い聞かせて部屋から出て、辺りを見渡す。台所がある方向は分かっているけど、食器が何処にあるか分からない。

「おい、お前、人ん家で何やってんだ?」
「ひぃ…」

不意に声をかけられて、その声があった方向に目を向けると1人の男の子がいた。この子はどっちだろう。

______時透さん家の息子さんは、双子らしいんだが、性格が正反対なんだ。

気難しい長男の有一郎くんと、心優しい次男の無一郎。

「兄さん、その子は樋野先生の娘さんだよ。」
「あっそ、」
「名前は確か…薫ちゃんだったよね?」
「…っ、」
「どうしてそんなに怯えてるの。大丈夫だよ、怖くないよ。」
「おとこの、こ…」
「は?男だから怖いのかよ。意味分かんねえ。」
「もう兄さん!」

有一郎くんと無一郎の区別は直ぐについた。顔はそっくりだけど、2人の纏っている雰囲気が違うからだ。キリッとしてるのが有一郎くんで、ふんわりしてるのが無一郎。

「お水を…お父さまがもらって来てって、多分お薬を調合するんだと思う。」
「それを早く言え鈍間!」
「…っ、」
「兄さん、そんな言い方無いだろ!」

行こうと優しく手を引いてくれる無一郎。怒りながらも前を歩き、時折此方の様子を見つめる有一郎くん。私たちが打ち解けるのに、そう時間は掛からなかった。

「はっ、お前が化け物なんかなるかよ。泣き虫で鈍臭い癖に。馬鹿じゃないのか。」
「兄さん、そんなこと言うなよ!大丈夫だよ。それでも僕は薫が好きだよ。薫はとても優しい女の子だ。化け物なんかじゃ無いよ。」
「…、」
「ほら泣かないで。薫は1人じゃないんだよ。僕たちがついてるから。」

私の身体のことを告げても、私を怖がらなかった有一郎くんと、それでも大事だと言ってくれた無一郎。こんな幸せな生活がずっと続けば良いと、そう思っていたのに。その幸せは、長くは続かなかった。私が11歳になった年、無一郎達の両親が亡くなった。その日から、有一郎くんの纏う雰囲気が少し冷たくなった。何かに怯えているようにも見えた。

「何しに来たんだよ。」

無一郎たちは、日の呼吸の使い手の末裔らしい。あまね様がそれを伝えた時、双子の反応は正反対だった。

「ご、ごめん…でも誤解を解きたくて…私は鬼殺隊の御内儀さまには会ったことないし、お館さまもそうだよ。私だって初めて知ったの。」
「そんなことどうでもいい。お前は無一郎の側にでもいろよ。」
「どうしてそんなに無一郎に冷たく当たるの?本当はなによりも大事にしてる癖に。」
「お前に何が分かるんだよ!!」

どすんと突き飛ばされる。だけど、諦めない。2人には仲良しでいてほしい。

「分かるよ!私だって、お母さまを失ったもの!今だって、お父さまが無事に帰ってきてくれるか、不安だもん!」

父親は鬼殺隊の任務について行くと言ったきり、戻って来なくて。寂しくて怖くて仕方なかった私は、自宅ではなく、無一郎たちが暮らしている家に寝泊りして、それを紛らわしていた。

「本当は怖いんでしょう!無一郎が誰よりも大切だから、無一郎を失くしたくないんでしょう。嫌われても良いから、そうして側に置いておきたいんだ!」
「!!」
「有一郎くんはとっても優しい人だから、アレが本心じゃ無いことくらい分かるもん!」

ギュッと抱きついて泣いた。きっと、すごく困らせてしまったんだろう。だけど有一郎くんは、フッと笑った。

「お前みたいに、馬鹿正直には生きられないんだよ。こっちは。」
「きっと仲直りできるよ。私が今夜もいるもん。仲良くない2人は嫌だなあ。」

私に任せてと笑って見せたけれど、結局それを叶えてあげることは出来なかった。






20200501




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