ラララ存在証明 | ナノ

  かなしむ暇などありはしない


私と煉獄さんの出会いは、まだお互いが柱になる前に遡る。一般隊士の頃に任務が一緒になったことがあった。私はその時、自然と思った。この人はすぐに柱まで上がるだろう、と。炎の呼吸の使い手を多く輩出してきた家系の嫡男で、胸には強い信念を抱く人。それに憧れる者は多く、私もその中の1人だった。当時の私は、若い隊士が多い鬼殺隊の中でも、一等幼く、目立つ存在だった。そんな私を甘やかしもせず、時には厳しく、そして時には優しく接してくれたのも煉獄さんだった。

「稽古をつけてください。」

と頭を下げれば、良いともと笑ってくれて、何度も打ち合いを重ねた。だけど、私たちが扱う呼吸は正反対で、私は煉獄さんの継子の道は歩まなかった。それにも関わらず、気にかけてくれて、共に頑張ろうといつも励ましてくれた。

「前から思っていたんだが!樋野は伊黒か冨岡に教えを請うと、もっと強くなると思うぞ!!」

とても面倒見が良くて、みんなが絶望の中にいても、明るく照らしてくれる太陽のような人だった。

「樋野!柱になったらしいな!おめでとう!これからは柱として共に励んでいこう!」

継子だった訳でもないのに、私が柱に昇進すると自分のことのように喜んでくれた。

「樋野は頑張り過ぎるところがあるからな!少し心配なんだ!!たまには肩の力を抜くのも良いぞ!!」

会うたびに、良く通る声で私の名を呼び、声をかけてくれた。私は、それが凄く嬉しかった。

「伊黒から聞いたんだが、樋野は時透と幼馴染らしいな!無理はしていないか!」
「大丈夫ですよ。」
「うむ!大事な友に自分のことを忘れられるということは、とても辛いだろう!溜め込まずに周りに吐き出すと良い!俺に言いにくとも、伊黒には言うようにしなさい。伊黒なら安心だ!!」
「ありがとうございます。」

私は与えられてばかりで、何も返すことが出来なくて、いつも申し訳なく思っていたんだ。煉獄さんに師範のことを教えて貰わなければ、私はきっと柱にまでなっていないのに。

「樋野の扱うその技は、稀有な上に素晴らしいな!俺にもしものことがあれば、その技を受けてみたいものだ。」
「弐ノ型、薫香をですか?」
「ああ!樋野に最期を看取られる隊士たちは、きっと幸せだろうな!」
「…縁起でもないこと言わないで、早く手合わせしましょうよ。」

私が貴方に何かを返すことはできたのだろうか。回復の技を出したとしても、助からなかったことも分かってる。多分、心臓を損傷していたはずだ。気休めにしかならない安らぎは、死期を遅らせ、ただ当事者を苦しめる事しかできない。だけど、それでも私は___。














...

目蓋を開けると見慣れた天井が目に入った。ベッドに寝かされていた私は、身体を起こそうとしたが、左脇腹に鈍い痛みが走った為、それを阻まれた。此処が蝶屋敷であることを理解するのに、そう時間はかからなかった。ふと右手が何か温かいものに包まれていることに気づいて、視線を辿っていくと、そこには思いがけない人物が座っていて、私を見つめていた。

「ああ、目が醒めたんだ。」
「む、時透くん…何で?」
「えーと、何でだったかな。」

困ったように首を傾げた無一郎を見て、投げかけた問いを後悔した。ウンウン悩む彼を見つめながら、様々な疑問が浮かび上がってくる。あれからどうなったとか、私はどれくらい眠っていたかとか。その中でも1番気になっていることを投げかけた。

「煉獄さんは…?」
「亡くなられたよ。」

アッサリと返ってきた答えに、胸がとても苦しくなった。無一郎の中でも、煉獄さんが亡くなったことは大きなことだったのか、しっかりと認識しているようだ。あの傷では、助かる方が奇跡だと分かっているのに。現実を突きつけられると、こうも苦しいものなのか。

______俺にもしものことがあれば、その技を受けてみたいものだ。

共に任務に出たというのに、彼の生前の願いすら、私は叶えることが出来なかったのか。そんな私には気付かず、どうして此処にいるのかが分かったのか、無一郎があっ、と声を上げた。

「………さっきまで、伊黒さんがいたんだ。でも用事が出来たからと言って何処かに行ってしまったの。僕は帰ろうかと思ったんだけど、君がこの手を離してくれなくて残ったんだった。」
「ええ!ごめん!………待って!私から握ったの!?」
「?どうだったかな?伊黒さんに手でも握ってやれと言われたような気がするけど、ねえ、離しても良い?」
「そうなんだね…ごめんね…」

記憶がない無一郎からしたら、ただの同僚の手を握るなんて嫌だろう。なんだろう、自分でそう思って虚しくなった。

「まだ時間ある?」
「えっと…任務さえ入らなければ…?」

若干嫌そうに首を傾げられたけれど、まだ此処に残っていてくれるらしい。

「何度か仲間を失うことを経験したけれど、いつまでもコレには慣れないな。」

慣れたくなんてないけれど。あわよくば、誰も死ななければ良いのにっていつも思ってる。医者の娘だから、人より医学の知識があった。人よりも少しだけ良い自慢の記憶力で、更にそれを伸ばした。暇さえあれば医学書を読み漁ったし、休みの日はしのぶさんに教えを請うたり、しのぶさんが忙しい時は、父親の伝で知り合いだった町医者の手伝いをしながら、医療技術を学んだ。剣技だけ極めても、足りないって頭が叫んでいたから。だけど、それでも救えないものが沢山ある。頑張っても頑張っても、私の手のひらから溢れて、落ちていくんだ。行かないで、置いていかないでって、そう思うのに。戻ってきてくれない。

「助けたかった…。」
「失った者を嘆いても仕方ないでしょ。」
「そうだけど!!」
「悲しむ暇があるなら精進しないと。柱が1人欠けてしまった穴は大きい。君も早く身体を治しなよ。」

______泣くと不細工だって言っただろう。

「そうだね…こんなこと話してごめんね。忙しいでしょ、もう行っていいよ。」
「そう。」

分かったと言って、無一郎は、感情の読めない顔を背けて、出て行ってしまった。深い溜息を吐いた途端、再び戸が開いて、驚きのあまり、身体がピクリと跳ねる。

「お前は時透にも本音が言えないのか。」
「盗み聞きは良くないですよ、伊黒さん。用事は良いんですか。」

ジトリと睨み付けるも、更に鋭い目付きが返ってきた。

「用事を済ませて戻ってきたところだ。そうだな、胡蝶。」
「ええ、そうですね。目が醒めたんですね薫ちゃん。私とっても気になることがあるんですけど、お伺いしても大丈夫でしょうか?」
「ひっ…」

目だけ笑ってないしのぶさんが、スッと伊黒さんの背から顔を出した。今すぐ戻ってきて無一郎!と心の中で何度も叫ぶが、その願いが叶うことはなかった。







20200428

prev / next

[ back to top ]


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -