この世界の色は何度も何度もうつり変わって、ぼくを取り残していくんだ
翌日。天気は晴天。

「打ち上げた!!西宮まだ走るな!」
「え!?なんで!?」
「ルール知らないなら先に言いなさい!!」
「知ってるよ!!打ったら走るんでしょう!!?」

今日は絶好の野球日和になり、みんな元気に校庭を駆け回っている。私は、見学なので、そんなみんなを眺めるだけだけど、それでも結構楽しい。人数不足のため外野手1人だけ呪術使用OKという反則になるんではないかという不思議なルールも設けられた。京都校には西宮先輩がいるので、それが余計に際立つ。

「おおっ、間に合った」
「狗巻先輩、足速いんだよ」
「すじこ」
「真依!!三輪!!盗塁あるわよ!!」

ぼーっとそれを眺めながら、昨日のやりとりを思い返す。今考えれば、私の言葉少ない説明で理解してくれたみんな凄いな。そして、その上で付いてきてくれるって言ってくれてるのだから、友達って本当に素晴らしい。…なんて、物思いに耽っていると、真希ちゃんが隣に座った。

「シケた面してんな、梓」
「……ちょっと、いろいろ考えてた」
「私らは、そんなヤワじゃねーよ」
「そうだね」

コツン、と額を突かれる。容赦の無いそれは、滅茶苦茶痛い。しかも、パンダくんも狗巻くんも今は校庭に出ているから、それを咎めてくれる人もいない。ちらりと1年生の方へ視線を向けると、サッと逸らされる始末である。

「お前、まだ何かあんのか」
「…いや、特には」
「今の間はなんだよ」
「………」
「何か言えよ」
「………」
「おい梓」

真希ちゃんは、強い人だと思う。それは身も心もという意味で。そして、とても優しい人だ。

「別に…、少し不安なだけだよ」
「正直じゃねーか」
「でも、此処に来て良かったとも思う」
「……明日は嵐か?」
「酷い」

キッと睨み付けると、乱雑に髪を撫でられる。ああ、多分、励まそうとしてくれているのだなと思った。相変わらずわかりにくい人だ。

「お、」

いつの間にかバッタボックスに行っていた虎杖くんが、ボールを打つ。キィンと良い音が鳴り、キレイな放物線を描いて飛んでいく。

「入ったな」
「そうだね」

姉妹校交流会2日目、野球戦
東京 2-0 京都
30年度交流会、勝者 東京校







寮の部屋に戻った途端、スマホが振動する。なんて良いタイミングなんだと思いながら電話に出ると、懐かしい友人の声が鼓膜に入ってきた。

「久しぶりだね、乙骨くん」
『うん。それにしても珍しいね。須藤さんから話したいことがあるって連絡くれるなんて。どうしたの?大丈夫?何かあった?』
「ふふっ…うん、まあ色々とね」

相変わらず心配性な彼の顔が、手に取るように分かる。きっと眉毛を八の字にしているのだろうな。

「わざわざ電話くれてありがとう。今は忙しくないの?」
『うん、大丈夫。だから、ゆっくり話せるよ。……みんなは元気にしてる?』
「元気が有り余ってるんじゃないかってくらい、元気そうだよ」
『うわー…想像できる。大変そう』
「当たり。ツッコミが不在だからね。そうそう、京都との交流会勝ったよ」

色々とハプニングもあったけれど、と言う言葉は飲み込んだ。

『そっか、』

その言葉を最後に、沈黙が流れる。多分、私が話すのを待ってくれているのだと思う。私は、2年生にした話をそのまま乙骨くんにも話した。1人だけ除け者になんてする訳にはいかないけれど、余計な心配をかけるだけになるかもしれない。だけど、話さないという選択肢は、私には持ち合わせていないから。

「頑張ってみるよ」
『………信じてるよ、須藤さん』
「うん、ありがとう」

それから、会えてない間の他愛もない話をした。乙骨くんは、人を癒やすパワーがあると思う。マイナスイオンが出ているというか、声を聞くと何故か落ち着くのだ。そして、電話を切ると無性にさみしく感じて、はやくみんな揃って会いたいななんて、子供みたいな事を思ってしまった。




20201226 第3章[完]

動き出すと決めたから。1人ではないと分かった今なら、大丈夫だと自信を持って言えるよ。
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