氷点下にいっそ融けたい
しばらく歩いていると、視界が急に明るくなった。すぐに"帳"が上がったのだと気づく。すると、ポケットにいれていたスマホに着信が入る。それは大音量で流れて、そう言えば少し前に、マナーモードを解除したんだったと思い出した。誰が見ているわけでもないのに、途端に恥ずかしくなる。電話に出ようとスマホをタップしようとしたところで、背筋に冷や汗が流れた。

先ほどとは別の"呪いの音"が頭に鳴り響いたからだ。

「………だれ?」
「おや、"今回"は見つかってしまった」

見た目は人間であることには間違いないのに、この気配が、そうではないと告げる。そして、警鐘の鐘が教えてくれた。こいつは、呪詛師だ。

「あなた、だれ?」
「うんうん。ちゃんと"効いている"んだね」
「!」

距離を取ろうと一方後ろに下がる。

「大丈夫、今日は何もしないから」
「……なに、」
「だけど、ごめんね。"今日も"眠ってて?」
「!!」

突然、視界が真っ暗になった。







目が覚めると見慣れた天井で、此処が医務室だと理解するのに時間は掛からなかった。

「起きたか。お前が1番最後だぞ」
「家入さん…」

ベッドから出てカーテンを開けると、何かの記録をしている家入さんの姿が目に入る。

「なにかあったな?」
「………?あ、はい。倒れる前に、呪詛師に会いました。そのことですか?」
「もちろんだ」
「でも会っただけで、よく分からないんです」

あの人が、私に何かをしたのは間違いないのだろうけど、今回は何もしてこなかったようだし、何より"初対面だ"。そう思っているのは、私だけみたいだけど。

「見た目だけでも覚えているだろう」
「…20代くらいの男性。黒の短髪。鬚はなし。個人的にイケメンとしか…」
「結構覚えてるじゃないか」
「でも、どんな術式とかまでは、さっぱり…」
「そうか」

とりあえず、家入さんの目の前に腰掛けた。すると、家入さんから缶ジュースを差し出される。

「2時間程眠っていたから、水分は摂っていけ」
「ありがとうございます」

遠慮無く受け取り口に含む。甘い林檎の味が口の中に広がり、ほっと肩の力が抜けていった。家入さんは、その間に、私の脈を取ったり、瞼の下をみたり状態を観察してくださる。

「ま、一時に比べたら、まともか」
「………その節は、どうも。みんなはどこに居るんですか?」
「談話室にいるはずだが」
「そうですか、分かりました」

ゴクゴクとジュースを飲み終え、軽く洗面台で空になった缶を濯ぐ。

「空き缶はそこに置いて行け。後でまとめて捨てる」
「分かりました。ありがとうございます」

裏返しにして、洗面台のすぐ側にそれを置いた。

「みんなのところへ行っても良いですか?」
「ああ。また何かあれば来い」

再度、家入さんにお礼を言って、私は足早に其方へ向かうことにした。







「……こんぶ!!」

そろり、と談話室へ足を踏み入れると、すぐに狗巻くんに気づかれてしまって、注目を浴びた。私は軽く会釈をしながら、うちの2年生が固まっているテーブルへ向かう。なぜか真希ちゃんがパンダくんの方へと席を移動したので、私は狗巻くんの横に座った。

「おせーよ!」
「うん…なんか、ごめん?」
「大丈夫か梓。心配していたんだぞ」
「ありがとうパンダくん。なんか、私もよく分かってないんだけど、大丈夫」
「ツナマヨ」

__心配した

「うん、ごめん。大丈夫」

そんな話をしていると、五条先生が意気揚々と入ってきて、

「っつーわけでさ、色々あったし人も死んでるけど、どうする?続ける?交流会」

そんなテンションで言うことじゃないと思うんだと思ったのは私だけだろうか。その言葉に反応したのは、虎杖くんと東堂先輩で、

「うーん…どうするって言われてもな…」
「当然、続けるにきまっているだろう」

対照的な反応に非難が集中したのは東堂先輩だ。五条先生は、楽しそうにその心は?と聞いている。

「1つ、故人を偲ぶのは当人と縁のある者達の特権だ。俺達が立ち入る問題ではない。2つ人死にが出たのならば、尚更俺達に求められるのは強くなることだ。後天的強さとは、"結果"の積み重ね。敗北を噛みしめ、勝利を味わう。そうやって俺達は成長する。"結果"は"結果"として在ることは一番重要なんだ。3つ、学生時代の不完全燃焼感は、死ぬまで尾を引くものだからな」

意外と正論を述べられたので、口を挟む隙がなかった。

「俺は構わないですよ」
「どーせ勝つしね」

伏黒くんと野薔薇ちゃんの言葉に、うちの1年は本当に逞しいなと感嘆した。

「………本当にやるの」
「意義なーし。なんだ梓弱気だな?大丈夫だ、梓の分は棘がなんとかしてくれる」
「しゃけ」
「それはそれで申し訳ないんだけど」

パンダくんの言葉を聞いて、はあ…とため息を吐いた。そんな私を一瞥した真希ちゃんが「個人戦の組み合わせはくじ引きか?」と聞くと、今年は個人戦はやらないと返答が返ってくる。

「僕、ルーティンって嫌いなんだよね」
「ああ…なんか、また頭痛くなってきた…」

頭を抱えると狗巻くんにポンポンと背中を叩かれる。

「毎年この箱に勝負方法入れて当日開けるの」

五条先生はそう言うと、その箱とやらを虎杖くんに渡した。虎杖くんが手を突っ込んで、そこからくじを引く。そこには野球と書かれていた。

「待ってよ、人数に差があるのはどうするの?」
「あ、じゃあ梓見学で」
「………うん、ありがとう。じゃあ、それで」

私の意見も聞かずに、そう言った真希ちゃん。私も、それで良いよと言うと、東京校のみんなは意義なーしと叫んだ。

「つまり私はお荷物ということ…」
「違いますよ。そんな真っ青な顔されてる人に出ろって言えるわけないでしょう」
「私、そんな重傷じゃないんだけど」
「おかか」
「言うと思ったよ狗巻くん」
「お・か・か」

結局、折れるしかないので、私は見学ということになった。とりあえず、私は応援を頑張ります。







20201219

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