普遍なんてありはしないのに
ミーティングが終了して、私たちは配置に着き開始を待つ。

「…俺も割と負けたくない」

そう言ったのは伏黒くんで、珍しいなと思う。私の知る伏黒君は基本的にクールで、喧嘩の時以外は、あまり感情を表に出さない。

「何が割とよ。1度ぶっ転がされてんのよ!?圧勝!!コテンパンにしてやんのよ!!真希さんの為にも!!」
「……そーいうのやめろ」
「明太子」
「そう!真希のためにもな!!」

ここで、パンダくんと狗巻くんの悪ノリがはじまって、真希ちゃんが照れてしまっているけれど、生憎それに気づいたのは私だけのようだ。

「梓は、身体、大丈夫か?」
「うん…まあ、ぼちぼち」
「こんぶー」

__無理するなよ

本日の調子は可も無く不可も無くだ。コレが終わったら、やることがあるので、それまではなんとか耐えなければならない。

「ありがとう、狗巻くん」
「しゃけ」

ふっと、微笑み合うと途端に真希ちゃんたちにからかわれる。

「はいそこー、いちゃいちゃしない!」
「してないです…」
「梓、気持ちは分かるぞ。棘、かっこいいもんな…」
「いや、あ…それは、…えっと、」
「ツナマヨー?」

__かっこいい?

「………いまのは、優しいでしょ」

こういうときに、変に狗巻くんは悪ノリしてくるので困ったものだ。はあ、とため息を吐いた。

「へへっ、そんじゃまあ、勝つぞ!」
「何、仕切ってんだよ!」

空気を読まずに虎杖くんが声高らかに宣言すると、途端に真希ちゃんが足蹴りを喰らわせた。ご愁傷様としか言い様がないけれど、2年生たちの変な悪ノリが終わったので、心の中でお礼を言っておこう。そうこうしていると、

『開始1分前でーす!では、ここで歌姫先生にありがたーい激励のお言葉をいただきます』

五条先生のアナウンスが聞こえてくる。

『はぁ!?え…えーっと、あー…ある程度の怪我は仕方ないですが…そのぉ…時々は助け合い的なアレが…』
『時間でーす』
『ちょっ、五条!!アンタねぇ』
『それでは姉妹校交流会、スタァート!!』
『先輩を敬え!!ピー…ガガッ…』

なんとも絞まりのない合図に、私たちは一斉に駆け出した。


森の中に走り込んだ途端に、呪いの"音"が彼方此方から聞こえてくる。今回私は、基本的に単独行動だ。放たれている呪霊が2級相当という情報があらかじめ開示されている為である。もし、京都校の生徒とやり合いになって、分が悪くなれば合図で知らせる算段だ。

「じゃあ、また後で」
「気をつけろよ、梓」
「うん、大丈夫。何かあったら"連絡するから"」

頭に過ぎるのは1週間前の家入さんとの出来事だ。







「記憶操作、ですか?」
「ああ、脳にダメージがないからなんとも言えないが、洗脳に近いかもしれないがな」
「洗脳…」

そう言われて、ああ、そうですかとは納得できない。自分からしてみれば、1週間意識が無かったという、その事実も不思議なものだからだ。

「とはいえ、毎日のように続いている耳鳴りや頭痛…。貧血については、きちんと食事を摂っていなかったのも、あるだろうがな」
「1週間何も食べてなかったんですよ。そう簡単には戻せませんって」

しばらく雑炊生活が続いたせいだろう。真希ちゃんや狗巻くんから、すごい見られたけれど、コレばかりは仕方ない。

「貧血は改善されてきたのか?」
「そうですね、きちんと食べれるようになったので。頭痛や耳鳴りも、こう言ってはアレですけど、慣れてきてしまいました」

ははっ、と乾いた笑いが漏れる。

「それと、須藤の身体から微かだが何者かの呪力が感知されている」
「………それは、」
「相手の特定までは、分からんが…高専関係者以外で、術師に会ったか?」

その問いの答えは、ノーだ。

「……そこで、イエスと答えてくれたら、どんなに楽か」
「つまり、私は何者かに会っているということですか?」
「だとしたら辻褄が合うんだよ。つまり、」

わたしは、何かの記憶を消されている。ならば、どうやって、それを取り戻すか。そして、それを、どうするかだ。







何体かの呪霊を祓ったところで、ふと足を止めた。なんだか、とても胸騒ぎがする。私の場合は、自分から"呪霊に向かっていっている"ので、今の今まで気にならなかった。だけど、

"京都校の人が呪霊を退治した気配がない"

のは、あまりに不思議だった。1度、みんなの様子を窺おうかとスマホに手を伸ばす。もしかしたら、戦闘中で誰もでれないかもしれないけど…と思いながら、スマホの画面をタップした。

すると、伏黒くんからの着信が1件、野薔薇ちゃんから2件、狗巻くんから1件入っていた。絶対何かあったに違いない。何が起こっているのだろうか、と思案する。というか、何かあったのなら着信だけでなくメッセージにも残しておいてほしい、そう思ったのは間違いだろうか。

とりあえず、かかってきている順に折り返し電話をかけてみるけれど、誰1人でない。もうため息しか出てこない。とりあえず、マナーにしていたスマホの音量を最大にしてポケットに入れる。目を瞑って"耳"に全ての意識を注いだ。

緊急時の合図を吹こうかとも思ったけれど、何が緊急なのかさっぱり分からない状態で、人を集めるのは良くないだろう。自分の味方が来てくれたら儲けものだけど、京都校の人が来ては堪ったものではない。

「………、居た」

♪〜
タンタタン、タンタタンッ 

タンバリンを叩きながら加速していき、見つけた人物との合流を急いだ。面倒くさいことになっていませんように、と祈りながら。






20201206
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