ようこそ、みなさん
迎えた京都校との交流会の日。待ち合わせ場所にたどり着くと野薔薇ちゃん以外のメンバーはもう既に集まっていた。

「おっせえな、梓」
「いや、なんで真希ちゃんは私を置いて行ったの…」
「お前がおせえから」
「…うん、分かった。ごめん」

これ以上何を話しても無駄だと瞬時に悟り、口を瞑んだ。そういえば、野薔薇ちゃんは、最近何か矢鱈と買い物に出たりドライヤーを持って行った方が良いか?とか訳分からないことを言っていたけど、大丈夫だろうか?何か勘違いしているんではないだろうか…現に今、彼女はまだ来てないし。

「ツナツナ」

__ねえねえ

うーん、と思案していると、トントンと狗巻くんに肩を叩かれる。

「…ん?なに?」
「高菜?こんぶ?」
「身体は大丈夫だよ、ありがとう」

にっこりと微笑んでそう言うと、安心したように息を吐かれる。相変わらず狗巻くんは優しい。さて、来る気配のない野薔薇ちゃんに電話してみるかと、スマホをタップしたとき、ガラガラ…とスーツケースを引く音が聞こえてきた。

「なんで、皆手ぶらなのー!!?」

ポカン…と口を開けて登場したのは、私たちが待っていた人物だった。

「オマエこそ、なんだその荷物は」
「何って…これから京都でしょう?」

私たちの疑問を代弁するかのようにパンダくんが問えば、予想していなかった返答が帰ってくる。

「京都"で"、交流会…」
「京都"の"姉妹校"と"交流会だ、東京で」

どうやら、やはり勘違いをしていたようだ。

「どうりで最近会話が噛み合わないわけだ」
「ですね」

真希ちゃんと伏黒くんが呆れた目で野薔薇ちゃんのことを見ている。

「去年勝った方の学校でやんだよ」
「勝ってんじゃねーよ!!バカ!!」
「俺らは去年出てねーよ。去年は人数合わせで憂太が参加したんだ」
「"里香"の解呪前だったからな。圧勝だったらしいぞ」

去年の開催地は京都だったので、授業や任務もあったから、私たちの中で見た人はいない。だけど、乙骨くんの実力はみんな知っているので、流石と言える。

「許さんぞ乙骨憂太ー!!」

もぎゃああああと叫んでいる野薔薇ちゃんを、よしよしと宥めるパンダくんと狗巻くん。伏黒君が、恥ずかしいから辞めろと言わんばかりに野薔薇ちゃんのことを見ていた。すると、ゾロゾロ…と足音が聞こえてくる。

「おい、来たぜ」

真希ちゃんの言葉に、私は視線をそちらに向けて、ぺこりと頭を下げた。

「あら、お出迎え?気色悪い」
「乙骨いねぇじゃん」

その中には、先日会った東堂という人と、大阪任務で一緒だった加茂先輩がいた。失礼だけど、なんだか、彼方は治安が悪そうな顔ぶれが多いように見受けられる。

「うるせぇ、早く菓子折り出せコラ。八つ橋、くずきり、そばぼうろ」
「野薔薇ちゃん…なんてこというの…」
「しゃけ」
「狗巻くん、悪ノリしないで!」

訂正。どっちもどっちだった。

「怖…」

魔女のような見た目をした、可愛らしい女の人がぎゅっとホウキを握りしめている。

「乙骨がいないのは、いいとしテ、1年2人はハンデが過ぎないか?」

ロボの見た目をした人が首を傾げる。パンダくんと同じ感じだろうか。発言からまともそうだ。

「呪術師に歳は関係ないよ。特に伏黒くん。彼は禪院家の血筋だが、宗家より余程出来が良い」

加茂先輩の言葉に、真希ちゃんの妹と思われる真依ちゃんが舌打ちをしている。そして、ピリピリとした空気を壊すように、その後ろから京都校の先生が現れた。

「はーい、内輪で喧嘩しない。全くこの子らは………で、あのバカは?」

あのバカと呼ばれて頭を過ぎるのは五条先生なのだけど、

「悟は遅刻だ」
「バカが時間通りに来るわけねーだろ」
「誰もバカが五条先生の事とは言ってませんよ」
「いや、五条先生くらいしかいないでしょう」

呆れたようにため息を漏らす。すると、どこからかカートを引く音と走ってくる足音が聞こえてきた。どうやら、思ったよりも早いお出ましらしい。

「おまたー!!やぁやぁ、皆さんおそろいで。私、出張で海外に行ってましてね、」

そう語りつつ、お土産を京都校の生徒達に配り始める。

「そして、東京都の皆にはこちら!!」

あ、嫌な予感がする。サッと、1番近くにいた狗巻くんの後ろに隠れた。

「故人の虎杖悠仁君でぇーっす!!」
「はい!!おっぱっぴー!!」

テンション高めに登場した彼に、私はもう頭を抱えた。いや、生きていることは知っていたけれども、このタイミングで生きていたことを公表するなんて聞いてない。ましてや、私はみんなに黙っていたし…

「………たかな?」
「何も聞かないで…何も聞かないで…」

どういうことだと問い詰めんばかりに五条先生を睨むけど、五条先生は何処吹く風で。私は、余計なことを言わないでねと虎杖くんをのぞき込むと、バチっと目が合ってしまった。

「…あーーっ!!確か、須藤先輩!?」

空気を読めって言ってるじゃん(※言ってない)

「何、梓、知り合い?」
「そういや、梓って虎杖の解剖に立ち会ったんじゃなかったか?」

どういうことだよ、と言わんばかりの視線が真希ちゃんから突き刺さる。

「おいコラ、棘を盾にすんな!」
「おかか!」
「まあ、真希怒るなよ。言えない事情でもあったんじゃないか?」
「うっせー、棘もパンダも梓に甘過ぎだ!」
「おかか!!」

狗巻くんを盾にしながら、1年生の様子を盗み見る。野薔薇ちゃんは、嬉しそうな、だけどちょっと怒ったような顔で虎杖くんのことを見ていた。…ちょっと、微笑ましいと思ったのは秘密だ。

「でも、これで人数こっちの方が多くなるよね?どうするんだろ?」
「個人戦はともかく、団体戦は良いんじゃね?もしかしたら、ハンデがつくかもだけど、こっちは1年が3人だぞ」
「あー…」

向こうは3年生が3人で、2年生が3人。対するこっちは、2年生が4人で1年生が3人だ。学年的に言えば、さっきのロボット君が言ったように、こちらが少し分が悪いように見える。

「まあ、そういうのは上が決めるだろう」

京都校との交流会。初っぱなから、先行きがとても不安です。







ミーティング前に、虎杖くんがなぜ生きているのを秘密にされていたのかの説明がされる。………私によって。

「と、言うことですね」

こういう役割を担うのは五条先生の役目だと思うのだけど、五条先生は上の人たちと話すことがあると言って退席された。面倒くさい役割を押しつけられたとため息を吐くが、

「まあ、バカより梓の説明の方が分かりやすいわな」
「ですね」

酷い言われっぷりである。五条先生ドンマイ、と心の中で思った。そういう風に言ってもらえたら、幾分か気分が良い。野薔薇ちゃんだけ、まだ少し納得いかないようで、ご機嫌が悪そうだ。

「まあまあ、事情は説明されたろ、許してやれって」
「喋った!」
「しゃけしゃけ」
「なんて?」
「今のは、そうだそうだ、だね」
「しゃけ」

不思議そうにした虎杖くんに、狗巻くんが言った言葉を通訳する。尚更、不思議そうにした虎杖くんを見て、伏黒くんが補足をしてくれた。

「狗巻先輩は呪言師だ。言霊の増幅・強制の術式だからな、安全を考慮して語彙絞ってんだよ」
「"死ね"っつったら相手死ぬってこと?最強じゃん」
「そんな便利なもんじゃないさ。実力差でケースバイケースだけどな。強い言葉を使えばデカい反動がくるし、最悪自分に返ってくる。語彙絞るのは棘自身を守るためでもあんのさ」

虎杖くんは、こちらの世界を知って、まだ半年も経ってないらしい。好奇心が旺盛で、なんとも可愛らしい。良い意味で呪術師に向いてないなとも思った。

「で、どうするよ。団体戦形式は、まあ予想通りとして、メンバーが増えちまった。作戦変更か?時間ねえぞ」
「おかか」
「そりゃ、悠仁次第だろ。何ができるんだ?」
「殴る、蹴る」
「そういうの間に合ってんだよなぁ…」

つまり、この子も脳筋タイプということらしい。

「虎杖が死んでる間何してたかは知りませんが、東京校・京都校、全員呪力なしでやり合ったら、虎杖が勝ちます」

はっきりとした声音で、伏黒くんがそう言った。その言葉を聞いた真希ちゃんが、面白いと言わんばかりに笑っている。どうやら、私たちの方向性はもう決まったようだ。







20201202
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