サークル棟というと聞こえはいいが、内実は古くなった旧校舎をそのまま使用しているだけなので、かなりぼろい。木製の床は踏みしめる度にぎしぎしと唸るし、少々強い風が吹いただけで大きく窓がガタガタと揺れる。けれど、四角く切り取られた輪郭からは陽光が惜しみなく降り注ぎ、その奥には青空が見える。黄色く反射した光りは、2階にある一番奥の部屋、つまり当サークル部室であるここに、柔らかく留まっている。

「あ、やっと来たみたいですよ。木佐先輩」
「もー!二人とも遅いよ!先輩待ちくたびれちゃったよ。メールしてから五分もかかるってどういうことなの!」
「…五分なら早いほうだと思うが」

部屋の中には、既に到着していた三人の先輩。部屋の中央の扉からみて、真ん中のテーブルの右側に座っているのが、美濃さん。その反対側にいるのが羽鳥さん。そして中央に偉そうに陣取っているのが、当サークル会長である木佐先輩だ。

読書愛好会員は、これで全てである。つまり、先輩1人と俺とその同期生2人、新入部員が1人の合計5人で構成されているということ。一般のサークルがどうなっているかは、参加したことがないのでよく分からないが、極めて少ない人数だということだけは理解している。中身ただ本を読むだけのサークルなら、もっと部員がいてもいいのに、とは思ったのだが。

『俺、メンクイだから。綺麗な子じゃなきゃ嫌』

と淡々と申すサークル会長の言葉で、大体のことは把握出来た。どうやらこの読書愛好会というのは大昔からそのスタンスでやってきたらしい。メンバーが10人を超えたことがない、という羽鳥の言葉でそれは確信に変わった。

それと、もう一つ。顔以外に重要な条件が他に一つだけあるらしい。それは、本にかける情熱とか、愛情だとか。サークルに入りたいと申し出る人の数は、実際は多い。その中で木佐先輩の顔面チェックを合格した者にだけ、アンケートと称される入部テストが課されるのだ。中身は、どんな本が好きですか、とかどんな本を今まで読んできましたか、とか。おおよそ小中学の頃の読書感想文みたいなものだが、それをどのように書くかで明暗がはっきりと分かれる。使いまわしのありきたりな感想を書いてしまえば、そこで切られる。その感想って、他の本でも同じこと言えるよね?と解釈された文章は、ここにいる読書好きな者達の心を永遠に打つことはないはずだから。

その程度の本好きの人間が入会したって、面白い本の紹介なんて出来ないし、俺たちと会話なんてできないでしょ?そんなつまらない人達と無理に合わせるのも、きっと辛いだけだし。

―顔がどうのこうのはあまり賛同出来るものではないが、木佐先輩のこの言葉を否定することは出来なかった。辛辣な言葉に聴こえはするが、これは彼なりの優しさなのだ。つまらない人達、と相手を揶揄しているように見えるが、実はつまらない人というのは自分達のことであって。だから彼の言葉を本来の意味で翻訳すれば、「これまで読書しかしてこなかったつまらない人間ですがどうぞよろしく出来ますか?」となる。直接的なんだか間接的なんだか。でも、そんな不器用な質問の仕方は割と自分は嫌いではなかった。






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