はじまりのはじまり(3) 彼女は働きたいと思っていた。せっかく自由に動けるようになったのだから、両親のように働きたいと。生前はそんなことできなかったから、せめてあの世で立派に働いて見せようと。 その思いを彼女は正直に語った。訴えるように、祈るように。その言葉をどうとったのかはわからないが、鬼灯は彼女に告げた。 「そうですねぇ……。貴女、ここで働きませんか」 彼の冷たい目が彼女を見つめる。彼女はその目に物怖じすることなく、彼に向かって頭を下げた。 「お願いします。ここで一番忙しい所に入れてほしいんです。自分がどれほど働けるか試したくて」 「どこも忙しいですよ、地獄なんて」 彼女の言葉に、どこか吐き捨てるような響きを含ませて鬼灯が言う。彼女は一瞬驚いたが、すぐ表情を崩して苦笑しつつどこでも頑張りますよ、と言った。 「ここで一番忙しいといったらやっぱり鬼灯君だよね。なら鬼灯君のお手伝いみたいな名目で、ワシの第二補佐官なんてどう?」 「第二補佐官、ですか」 閃いた、と言わんばかりに閻魔が口をはさむ。基本は雑用だろうけどね、と付け足し、愛想のいい笑顔を浮かべる。 「それなら鬼灯君の負担も減るだろうしね。鬼灯君も、いいでしょう?」 「元々閻魔大王がサボらなければ負担も少ないんですが。まぁいいでしょう。では空いている部屋を探してきますので」 さらっと閻魔に毒を吐きつつ、彼は法廷を出ていった。そしてすぐ戻ってきて、 「大王、私が戻ってくるまでに1000人以上裁いていなければ金棒で100回叩きますからね。あ、それと貴女、ついてきてください」 と言ってまた外へと出ていく。呼ばれた彼女は閻魔に軽く会釈し、そちらへ走っていった。 [ しおり ] >>Back to Top |