部屋 「私の隣ですがここにしましょう。どうも私の隣って人気がないものでここしか空いていないのですが、構いませんか?」 「構う構わないの前に準備始めちゃってますね決定ですね」 法廷を後にした二人は会話をしつつ長い廊下を歩いていた。彼の部屋は鬼灯(植物)の装飾品が飾ってあり、前に立った時点でなんとなく威圧感が感じられる。 その隣の質素な扉を指さし鬼灯は問いかけるも、拒否権はないといった様子で部屋を開け掃除を始める。 「ほら貴女も掃除してください。今からここに住むんですから片付けておかないと」 「言われなくてもやります、ていうか手伝ってくれなくても自分でやりますよありがとうございます」 彼女はそう言い、箒を手に取り床を掃除し始めた。 その間にも時折彼らは会話を交わし、彼女は笑う。彼らはそれなりに仲良く話すようになっていた。 やりはじめると早いもので、一時間ほどで掃除は終了。掃除だけでなく軽いインテリアまで運ばれていた。 「終わりましたね」 「そうですね」 すっかり片付いて綺麗になった部屋。二人はどこか達成感に溢れた表情をしていた。 「なんかすいません、本来なら私が一人ですべきことなのに」 「日頃の仕事量を思えば容易いことですよ。それに心配しなくても貴女には山一つ超えるくらいの仕事してもらう予定ですから」 「また随分楽しそうに語りますねぇ」 そう言って彼女たちは扉を閉め、法廷へと戻りはじめる。 しばらくお互いに何も話さず沈黙の時を過ごしていると、鬼灯がふと口を開いた。 「そういえば、名前を訊いていませんでしたね」 「……やっぱり覚えてくれてなかったんですね」 彼が当然といったようにそう言う。彼女はため息とともに呆れを含んだ言葉を投げた。 「私は鬼灯といいます。これからあなたの上司となりますので。ビシバシいきますよ」 「れいです。石井れい。苗字で呼ばれるの半端なく嫌なんで是非れいって呼んでください」 これだけ言えば名前くらいは覚えるだろうという気持ちを込めて、彼女は無駄なほど一言に自分の名前を入れた。その甲斐もあったようで、彼の表情は何処かうるさそうだ。 「もうわかりましたよ。もう法廷ですので大王と今後の相談をしましょう」 彼はあしらうようにそう言うと、彼女に合わせていた歩くペースを速めた。 [ しおり ] >>Back to Top |