はじまりのはじまり(2) 罪状を確認する。 低く威厳のある声で彼女はそう言われる。彼女の一生が記されているであろう巻物には罪らしい罪は見つからず、閻魔は太い眉をその場でハの字に下げた。 「君罪なんて犯してないじゃない。天国行きだよ、むしろどうしてこんなところまで来たの」 先程までの威厳は何処へやら、閻魔の優しげな声色が法廷内に響く。 彼女は特に何も答えず、閻魔に向かってはっきりと言った。 「天国へ行くってことは転生するっていうことですよね。私、転生嫌です」 もはやお馴染みとなったこの台詞は、毎度よろしく閻魔を困らせた。 「ええ、転生が嫌なの?じゃあどうすればいいかなぁ……鬼灯君どう思う?」 「それくらい自分で考えられないんですか貴方は」 鬼灯、と呼ばれた背の高い男性。彼を見た彼女は何か違和感を覚える。何処かで会ったといういうわけでもなく。 唯単に違和感を感じるのである。 閻魔大王に罵詈雑言を気が済むまで浴びせたあと、くるりと彼女を振り返りその冷たい目で見据える。 彼女には、そのとき彼の表情が揺らいだ気がした。 「どうして、転生が嫌なんです?」 彼女を見下ろして問いかける鬼灯。 その問に彼女は答えた。 「私の人生は楽しいものではありませんでした。そこに書いてある通り私は事故で足が麻痺して、歩くことができなかった」 そのせいでいじめられたりもしたし、家族は私を面倒ごと扱いしていました。 そう続ける彼女には、少し自嘲のような表情が浮かんでいた。だがその直後にはすぐ先程の表情に戻り、きっぱりと告げた。 「でも今は歩けるんです。人の手を借りなくても、自由に動くことができる。だから今度はこちらの世界で、今度こそ幸福な日々を過ごしたい」 だから転生は嫌です。私は私でありたいから。 彼女の言葉からは生前の苦労が全く読み取れなかった。だが、だからこそかもしれないがメッセージ性があるように思えた。 [ しおり ] >>Back to Top |