はじまりのはじまり 冷たい暗い通路を、少女は歩いていた。足が動くという感覚に、違和感と新鮮味を覚える。彼女の頭は死因のことでいっぱいだった。虚ろな目をして、ぼんやりと覚束ない足取りで前に進む。少女は不幸だった。不幸だったが故に、幸福な生活に強く憧れた。 「死んじゃったんだなぁ……。あんな生活が楽しかったわけではないけど、まだ生きていたかったのに」 ──折角、諦めなかったのに。 肩にかかる程度の髪質のいい茶髪を揺らし、彼女は呟く。その虚ろな目には、まだ希望は消えていなかった。 最初の裁判。特に問題なく天国行きが決まった。天国で転生の時が来るまで暮らすのだという。 "暮らす"。つまり、住むことができるということだ。住むことができるのなら、働くこともできるのではないか。そう思った彼女は、後のことは何も考えず叫ぶように言った。 「私、転生嫌です」 彼女の前に座る裁判官らしき人が途端に困った顔になる。それも当然だろう、こんなことを言う亡者など今までいなかったはずなのだから。 ああだこうだと説得され、呆れられ、唸られ、話し合われ。 それでも彼女は考えを改めることはなく。 折角自由に動けるようになった身体で、働きたいと望んだ。 今度は幸せに、充実した生活を送りたいと。仕事と言う名の生きがいを見つけたいと。 そして結局は曖昧なまま次の裁判へと回され、二回目の裁判も同じように終わった。 それを何度も続け、彼女はかの有名な地獄の裁判長、閻魔大王の元に辿り着いたのだった。 [ しおり ] >>Back to Top |