Scene. 5 反復





「ねえ深雪、遊ぼうよー」


クッションに埋もれてウトウトしていると、視界を遮るように あたしの顔を覗き込んでいるリリネットに叩き起こされた。

「……スタークがいるじゃない」

「…………お前、俺に押し付けようとするなよ」

寝台の上に寝そべったままのスタークが大儀そうに手を伸ばして、あたしの髪をぐしゃりと撫でる。

「押し付けるも何も。あたしより、スタークの方が体力有り余ってるでしょー?」

髪を撫でた手をぎゅっ、と掴むと、やんわりと握り返される手。


「破面と“遊ぶ”には、たかだか五席の実力じゃ、全力出さないと死んじゃうって。……昨日、何時間もリリネットと“遊んで”て、若干 筋肉痛なんですけど」

「ババくせぇなぁ……」

「……うるさい」
 
くくっ、と喉の奥で笑い声を立てるスタークに、不貞腐れたような言葉を返す。


そんな あたしたちを見下ろしていたリリネットは、フッと妙に大人びた表情で微笑む。……けれど、そんな表情も まるで見間違いかと思うくらい、一瞬で消え去り、また いつもの子供っぽい表情に戻った。

「じゃあ、これで遊ぼうよ。昨日の あたしたちの様子を見てたらしい銀狐が貸してくれたの」

「…………銀狐て」

リリネットが手にしているのは、シンプルな市松模様のトランプだ。……それは、かつて市丸隊長が書類仕事を中断しては気分転換と称して、手すさびに繰っていたものと酷似していた。


…………虚圏に何しにきてんだか。



   *   *   *   *   



「ああー、もう肩バキバキやー!ボク、デスクワークとか性に合わへんねん」

「性に合わなくても、隊長になることを引き受けた時点で大事な書類仕事が増えることはわかりきっていたでしょう?」

「……イヅルは、ボクに隊長やめろて言うんやね」

「そんなこと言ってません!何を人の科白を勝手に拡大解釈して拗ねてるんですか!」 


……隊主室に入った途端、目に入ったのは、なまじ吉良副隊長が大真面目なだけに漫才にしか見えないやりとりだった。

他隊へ書類を届け、また三番隊宛の書類を持って戻った あたしが見たものは、まるで変わらない、いつもどおりの風景。

「あ、明里ちゃん ご苦労さん。ホラ、イヅル、明里ちゃんも戻ってきたことやし、休憩しよや。もらいもんのお菓子あったやろ?あれ出して、お茶淹れや」

「あ、お茶なら あたしが」

吉良副隊長から茶筒を受け取り、お茶の用意をする。と、その背後から投げかけられる、楽しげな隊長の声。

「なぁなぁ、明里ちゃん、コレ得意か?」

「トランプ……ですか?」

「ポーカーでもババぬきでもええけど。……仕事に戻る前に、ちょこっと遊ぼうや」

カードを扱う長い指先に、ほんの一瞬 見惚れる。すぐに我に返ったが、隊長には気付かれていただろうか。

「……じゃあ、ポーカーにしましょうよ。ひと勝負が、すぐ終わりますし」

誤魔化すように口にした提案に、何も気付いていないかのように乗ってくる隊長。

「ええで。……何を賭ける?」

「賭け事なんて、駄目ですよっ!!」

慌てて止めに入る吉良副隊長。


その予想通りのリアクションに、思わず市丸隊長と目を見合わせて、そっと笑った……。



   *   *   *   *   



平和だった頃の三番隊での日常を思い出すことは、今は少し辛い。

手ずれのある使い込んだトランプ。リリネットを通じて これを寄越したのは、ワザとなのかもしれない。


「深雪が遊び方知ってるって言われたけど」

「ん。いいよ、貸して」

あたしの手元を興味津々で見つめているリリネット。

カードをケースから出して、見よう見まねで覚えた数通りのやり方でカードをシャッフルしてみせる。

「……上手いもんだな」

寝台から起き上がったスタークは、背後から手元を覗き込んでいる。

ふと顔を上げると、どこか気遣わしげに あたしの横顔を伺っているスタークに気付いた。

……おそらく、リリネットにトランプを手渡された瞬間の表情に気付いているのだろう。


肩に そっと触れる手。ただそれだけなのに、微かな動揺は綺麗に消えた。


スタークと、ずっと一緒にいることが平気になったという訳じゃない。……というより、一緒にいることが、当たり前になりつつあるのかもしれない。


……そして、きっと それは間違っても幸せを示すものではないのだろう。



(2010.03.04. up!)



<-- --> page:

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -