Scene. 9 空回る世界





「あーっ!もう、また深雪の勝ち!?……アンタ、イカサマしてんじゃないよね!」

「……いや、あの、顔に出し過ぎなんだってば、リリネットは。ポーカーフェイス、て言葉があるでしょうが」

そう言いつつ、リリネットの投げ捨てたカードを拾う。2のワンペア。……これはこれで、見事だな。

リリネットはリリネットで、あたしが広げたカードを穴が開きそうな勢いでガン見している。あたしの手は、フルハウスだ。


寝そべったまま かき集めたカードを、またシャッフルする。

「リリネット、ほら、それも貸して」

差し出した手の上にカードを叩きつけるリリネット。

「もう、ポーカー嫌だ!別のにしようよ!」

「けど、二人でババ抜きもねぇ……」

しゃかしゃかカードを繰りつつ、のんびりと答える。

「じゃあ、いっそ腕相撲!」

「……このあいだ、それで脱臼しかかった あたしを少しは気遣っちゃあくれませんかね」

「え〜〜〜……」


……我ながら、捕虜のクセに どれだけ態度がデカいんだ、と思わなくもないけれど、そこを突っ込む者は、この宮にはいない。


「……お前ら、いい加減にしろ」

むく、と起き上がったスタークに、まるで猫のように首ねっこを掴まれる あたしとリリネット。

「人の腹の上で大騒ぎしやがって……」

「だって、スタークがクッションひとり占めして寝てるのが悪いんじゃん!ねぇ、深雪!」


……え、えーと。

今更ながらに自分の立場を省みて、リリネットの尻馬に乗ることを躊躇する あたし。

「床は冷たいし固いしさ。……スタークだって、深雪が自分とくっついてても元気なの、嬉しいくせに」


へ?


……それって…………。

ちらりと横目で様子を伺うと、スタークは無表情に あたしを見下ろしている。

あたしの視線に気付くと、はぁ、と大きな溜め息をついた。

「……そんな顔しなくても、怒っちゃいねぇよ」

……あたし、そんな怯えたような顔してた?

リリネットに目を遣ると、呆れたような顔で肩を竦めてみせる。


……リリネットの発言を意図的にスルーした、ってことか。

あたしとリリネットから手を離すと、スタークは こちらに背を向けて、またクッションの上に横になる。心なしか窮屈そうな寝姿の背中側には、人ひとり寝られそうなスペースが空いていた。


……うーんと…………。

そのクッションの山から、ひとつ譲ってくれるでもない、ってことは……。


「さーて、と。あたしは、アーロニーロんとこにでも、遊びに行ってこようかなー」

わざとらしい大声のひとり言。あたしを見てニヤリと笑うと、リリネットは跳ねるような足取りで部屋を出て行った。


…………。

これがヒトゴトなら、ある意味 微笑ましくもある絵面ではあるけど……明らかに、自分に決め打ちされてる、てわかってると、滅茶苦茶 緊張するわ!

いや……それもこれも、イマサラ何言ってんだ、って話だけど。


おずおずと近寄ると、スタークの背にもたれるようにクッションに腰を下ろす。……デジャヴか。

スタークの側にいることは決して不快ではないのに、こんな風に関心を向けられることには未だ慣れない。

そのまま膝を抱えて蹲る。自分の心臓の音が やけに大きく聞こえる気がして、落ち着かない。



「……おい、具合悪いのか?」

「え……」 

いつのまにか半身を起こし、あたしの腕を掴んでいるスターク。あたしの顔を覗き込む表情はやけに真剣で、前触れもない その勢いに、思わずポカンと口を開けて間抜けな顔を晒してしまう。


「……えーと。強いて言うなら、それ。腕掴んでる、その手が痛いです」

「あ……悪りぃ」

その科白とともに解放された腕。大いにばつが悪そうな表情のスターク。

「あ、いや、平気だから。気にしないで?ね?」


しかし……。

「……ね、聞いてもいいかな」

「あ?」

「スタークの能力って、毒とか、そういう類のものなの?」

……だとすれば、ただ側にいるだけの あたしの身体を気にする態度にも説明がつく。……けれど自然界に準えるならば、一番 強い生き物が毒を持ってる、というのは、イマイチしっくりこない。

「毒?そんなケチな技、持ってねぇよ」

……だよねぇ。

「じゃあ……」

「藍染サマに聞いたんじゃねぇのかよ」

「え、いや、そんな話は何も……」


『君は、スタークと一緒にいても平気だろう?』


もう何度も、頭の中で繰り返された科白。真意は理解できないままなのに、脳内に刷り込まれてしまった言葉が至極 不快だった。



   *   *   *   *   



「あー、でも ちょっとビリビリする感覚はあるかもしれないなぁ」

「え、そうなの?」


いつのまにか戻ってきたリリネットが、ちゃっかり会話に参加してきたお陰で、落ち着かない空気は一気に霧散する。

「うーん……でも、別に苦痛なワケじゃなくてね?まるで、細胞が活性化してるみたいな感じ。……コリがほぐれるというか」

「ああ!磁気ネックレスみたいなもんだ!」

ぽん、と手を打って、得意げに発言するリリネット。

……なんで知ってんだ、そんなこと。じゃなくて、プリメーラを磁気ネックレス呼ばわりって……いや、ネタ振ったのは あたしだけど。


「……お前ら、なんか物凄い失礼な話をしてねぇか?」

眠ってしまったと思っていたスタークが寝返りを打って、不機嫌そうな声を上げる。

「あ、だから、別に身体に悪い影響はない、って話をしたかっただけでね?」

悪ノリして、更に話を展開させようとしていたリリネットの口を塞いで、慌てて弁解する。


「いや、だから。あたしと外で思いっきり遊んだあと、スタークに ぎゅー、ってしてもらえばいいじゃん!そしたら、あたしも毎日 深雪と遊べて楽しいし、スタークだって嬉しいでしょ?」

「って、あのね……」

一体、何を言い出すんだ、この子は……。


スタークの様子を伺うと、一瞬 微妙な表情をしたかと思うと、こちらに背を向けゴロリと横になってしまう。


…………なんか、ごめん。


心の中で こっそりスタークに謝りつつ、話題を変えようとリリネットにポーカーの再戦を挑むべく、トランプの箱を手に取った。



(2010.05.01. up!)



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