Greetings From...






「…ちょっと離してください!」


砂南について散歩がてらに街の見回りをしていた その最中。前方の細い路地に連れ込まれようとしている水商売風の女と、その手首を掴む酔っ払いのおっさん、という場面に出くわした。

「この辺、結構ガラが悪いねんなぁ……」

俺も砂南も、特に歩くペースは変えない。横目で ちらりと隣を伺うと、とある飲食店の裏口から何かを引っ手繰る砂南を視界の隅で確認した。

……あーあ。

俺が目を伏せた瞬間、ばあん!と銅鑼でも叩くような派手な音がして、ふと下を見ると砂南の足元に おっさんが転がっていた。

「砂南、その“ゴミ箱の蓋”ちゃんと戻しときや?お店の人が困るで?」

「はあい」

くるっと踵を返し、素直に先程の店の裏口へ戻る砂南。それを横目で見ながら、絡まれていた女に声を掛ける。

「おねぇちゃん、大丈夫か?怪我してへんか?」

「あ、はい、大丈夫です。ありがとうございます」

と……。


「どわぁっ!」

背中に『何かが』ぶち当たる衝撃。次いで、俺の肩に『猿』がぶらさがる。

「……砂南〜〜……危ないやろが!」

怒鳴りつけると、何やら耳元で ぼそりと呟いて顔を背け、背中から ぴょん、と飛び降りる。そのまま、先に立って歩き出すのを呆然と眺めていると、今 砂南に助けられた彼女が、くすくすと笑いながら俺らを見比べている。

「やだ、早く追いかけなきゃ。…あなたから、彼女にお礼言っといてくださいね。“SILK”の砂南ちゃんに助けてもらった、なんて自慢できちゃう」 




「こぉら、砂南!」

小走りで砂南に追いつくと、首根っこを捕まえて後ろから抱きすくめる。

「なんや、いきなり。怒っとんのか?」

「真子は……」

「んー?」

顔を覗き込むと、すっと目を逸らされて。

「……ああいうひとが好きなんだ?」

「へ?」

……なんでそうなるねん。大丈夫か、くらいのこと、普通に言うやろ。でも……。

「なんや、嬉しいなぁ。妬いてくれとんのや?」

「そうじゃなくて……」

真っ直ぐ俺を見つめ返す目の奥が揺れる。

「ああいう大人っぽいひとと付き合ってたんでしょ……?」


言い訳も浮かばず絶句してしまったのは不覚だった。

……図星指されたのバレバレや。多分、リサ辺りが何か吹き込んだんやろな。

「心配せんでも、俺ああいうタイプにはモテへんよ。俺みたいなのに惚れてくれるのは、お前くらいやで?」

そう言うと路地裏に引っ張り込んで物陰に隠れて。両頬に手を添えると、宥めるように唇を合わせる。


「……だいたい、あの子、明らかにお前のバンドのファンやったで?全然、俺なんか眼中になくて、落ち込みたいのは俺の方やっちゅーねん」

おちゃらけて言った科白にも、黙って まだ物言いたげに俺をみている砂南をまるで子供にするみたいに抱き上げて、髪をぐしゃぐしゃと撫で回して。

「ヤキモチとか、ホンマ可愛えなぁ、砂南は」

「……また、そーゆー子供扱いする」

「じゃあ……」


不貞腐れる砂南の耳元で、低く囁く。

「……帰って、子供相手じゃせぇへんようなことしよか?」

妬いて拗ねてみせる砂南が可愛くて、俺ひとり得した気分なのが後ろめたくて。いつもよりも優しい気持ちで、真っ赤になってしまった砂南の背に腕を回した。



(2009.11.22. up!)



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