Yawn その日の修行が終わって、一護が寝てしまってから。 拳西たちと何やら話し込んでいる真子。その様子をぼんやり眺めていると、いつのまにか隣に立って、そんな あたしを見下ろしている ひよ里。 「あー、お疲れさまー」 労いの言葉にも応えず、黙って その場に どっかりと座る ひよ里。 その横顔を眺めていると、あたしから目を逸らしたまま口をひらく。 「なぁ……真子の傷、見たことあるか?」 「傷?」 首を傾げて聞き返す あたしに、自分の肩から袈裟懸けに指でなぞってみせて。 「あれ……ウチがつけてん……」 搾り出すような声。理由はともかくとして、その声と その表情で十分だ。 「ふぅん……」 ワザと関心なさそうな声で相槌を打つと、案の定、激昂する ひよ里。 「ふぅん、て何や!ウチは、オマエの男に怪我さしとんやぞ!怒れや!!」 勢いよく立ち上がって、あたしの襟首を掴んで。 「あ、怒った方がいいの?」 「当たり前やろ!?ムカつくわー!!なんで、オマエは いっつもそうやねん!なんで、怒らへんねん、いつもいつも!!」 大声で一気に捲くし立てて、声を荒げて。……けど、ひよ里が怒ってるのは、あたしじゃないもの。怒れないよ。 「うん……だって……」 置きっぱなしのマグカップから、残りの冷め切ったコーヒーを飲み干してしまってから、ひよ里に まっすぐ視線を移す。 「理由もなしに、そんなことやんないよね、ひよ里は。そしたらさー」 へらっ、と笑ってみせて。 「真子が、ひよ里に斬られるようなことした、ってことじゃないの?だったら、あたしは、ひよ里につくよ?……なんだったら、あたしが ひよ里の替わりに真子ひっぱたいといてもいいけど」 「オマエ……」 何か言いかけた ひよ里の科白を遮るように、ばしっ!…と後頭部にハリセンで叩かれたような衝撃が走る。 「いったいなぁ……」 振り返ると、真子が丸めた雑誌を手にして立っていた。 「やかましいわ!オマエは、何の話をしとんねん!」 「えー……ひよ里が真子にセクハラされたんだったら、あたしが替わりに真子を成敗しとく、て話?」 「お・ま・え・は〜〜〜〜っ!!」 と、首を抱えるようにされ、頭のてっぺんにゲンコツをぐりぐりと……。 「あたたたたたたっ!し、真子、ギブギブっ!!」 じたばた暴れると、不意に そのまま、まるで荷物のように肩に抱え上げられる。 「ほなな。俺は、コイツ連れて帰るわ」 と、空いた手で、ひよ里の頭をぽん、と撫でて、そのまま瞬歩でアジトの入り口へと移動した。 「……おおきにな、砂南」 ぼそりと呟かれた科白は、うっかり聞き逃しそうなほど小さな声で。 「……何が?」 担ぎ上げられたせいで捲れ上がったシャツの裾を直すのに気を取られているフリで、ぱたぱたと裾をはたきながら応える。 ふっ、と哂った気配。顔を上げると、まるで視界を遮るかのように、大きな手で ぐしゃぐしゃと前髪を掻き回される。 「……行くで。帰りに、またコーヒーでも奢ったるわ」 ずんずん先を歩いていく真子の後を追いながら、あたしは振り返って ひよ里に手を振った。 (2009.10.09. up!) <-- --> page: |