恋人よ我に帰れ・3 -ごめんねと仲直り-






……何か、やたらと やさぐれた気分だったことは覚えている。

酔って俺に抱きついたまま眠ってしまった砂南をベッドに寝かしつけて。

幸せそうなクスクス笑いと寝言。そこで呟かれた名前は、俺にとっては相当痛かった。それで……。



「あたたた……呑み過ぎやな……。何杯呑んだんやろ、俺……」

と、こめかみに手を当てようと身動ぎすると、何か柔らかいものに包まれていることに気づく。

まるで、ちっちゃい子にするように、俺の頭を抱きかかえるようにして眠る砂南。手を伸ばして、その頬に触れて。

……なんや、シアワセな目覚めやなぁ…………。

緩む口許も そのままに、ぽーっ、と砂南の寝顔を眺めていると、ふと その目がひらく。

「おはようさん、砂南」

寝惚けたままの砂南と視線を絡ませて。キスしようと抱き寄せて、顔が近づいたところで はっきりと目が覚めたらしく、なにやら はっとした表情を見せ、次いで眉間に刻まれる縦シワ。

そのまま、ふっと俺から逃げるように顔を背け起き上がる。

…………へ?

「砂南?」

こちらに背を向けて、ゆっくりと毛布を畳んでいる。

「ちょお、砂南?どうした?」

横から覗き込むと、明らかに不機嫌そうに顔を背けて。

「えっと……砂南……ちゃん……?」


一瞬、躊躇しつつも遠慮がちに抱き締めて、こつん、と額をぶつける。

「なんや……ホンマに、どうしたんや……?」

「…………覚えてないんだ?」

「な、何を……?」

拗ねたような上目遣いに見惚れつつも、なんだか落ち着かない気分で その目を覗き込んで。 

「……なぁ。どうしたんや、砂南。俺、なんかしたか?」

と、ふっと逸らされる目。

「…………言いたくない」

……おーーーーい…………。


「言ってくれんと、わからへんやん。なあ。…………好きやで、砂南」

髪を撫でて、機嫌をとるように耳元で囁くと、何故か怯えたように顔色を変えて。

ぎゅっ、と俺のシャツにしがみつくように背中に手を回し、胸に顔を埋め、くぐもった声で呟く。

「……ギンと……したんだろう、って、言った……」

げっ……。さーっっと血の気が引く。

「……お、俺が?」

焦りつつ訊ねると、こくんと そのままの姿勢で頷く砂南。

……酔っ払っとったとはいえ、なんちゅー地雷を…………。


市丸が砂南に力を戻すためにやったこと、というのは正直、推測の域を出ない。それでも、まるっきり信憑性のない話、というわけでもなく……少なくとも、本当の自分の子供のように可愛がっていた男と、そんな関係になってしまって、傷つかなかったワケがないのだ。

……自惚れではなければ、少なくとも その頃の砂南は、俺を想って、そんな状態になっていた筈なのに。

「ごめんな……」

……100年も離れていて。衰弱して命を落としかけるほど自分を想ってくれてた女が、他の男に縋ったからといって、責められる訳もないのに。

「ごめん……」

抱き締めて、その髪に頬を寄せて。

「……もういいよ」

「せやけど……」

砂南の顔を覗き込むと、薄っすらと涙の滲んだ目のまま、にやりと笑って。

「んじゃさ、アイス奢って。それでチャラにしたげるよ」

アイス、ね……。

「安上がりな女やなぁ、オマエは。」

「もちろん、ハーゲンダッツね!プラリネ食べたい、プラリネ!」

「あー、はいはい」


我儘言って困らせるフリで。それが愛されてる証拠みたいに感じる俺も甘いんかなぁ……。

こんな幸せな時間が、かえって後で辛くならないなんて言い切れんのにな……。


それでも。おそらく酔って吐き出してしまったのであろう本音を傷つきながらも受け止めてくれたことに感謝しながら、そんな想いを言葉にできないままに砂南の身体を抱き締めていた。



(2009.10.16. up!)



<-- --> page:

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -