恋人よ我に帰れ・2 -酔っ払いの暴言と告白-






「……あーれぇ?」

呑んでた筈なのに。いつのまにか、ベッドに寝かされていて。

アルコールは抜けているものの……酒で身体が冷えたせいか、こめかみに残る鈍い痛み。

……やばい。このままじゃ、明日は二日酔い確定だわ……。

横になったまま視線を彷徨わせ、真子の姿を探す。と。


「し…真子……?」

カーペットの床に座る真子と、ばちっ、と目が合った。しかも、なんだか目が据わっている。

……………………怖。


「……起きたんか、砂南」 

「あ……うん」

ゆるりと起き上がって、ベッドの上に ぺたん、と座る。と、無言で、側にくるよう促されて。

…………怖いんですけど。

恐る恐るベッドを降りて、微妙に距離を取りつつ真子の前に座る。

「なんで正座しとんねん」

「……いや、なんとなく」

ぐい、と腕を引かれて、その勢いで真子の膝に倒れこむ。

頬に添えられた手に上向かせられて。あたしの顔を覗き込む目は、相変わらず据わっている。その、どこか思いつめたような表情に、視線を逸らすことができない。


「……なぁ」

一瞬、あたしを覗き込む目の奥が揺れる。そのまま唇が触れそうなほど、顔が近付いて。

「……ヤッたんか。市丸と」

「な……!」


あまりにも酷い問いかけに、思わず真子を突き飛ばそうとするも腕に力が入らず、逆に強く抱き寄せられてしまう。

頭を真子の胸に強く押し付けられて。とっくに痛みなんか感じなくなった筈の背中の傷跡をなぞる真子の指から逃れたくてたまらなかった。


「……好きや」

「……!」

再会して以来、真子の気持ちを疑ったことはないけど、真子の口説き文句は、いつだって斜に構えた上に冗談めかした軽い科白で、こんな悲痛な声音で吐き出されるものじゃなかったのに。

「砂南……好きや……好きや……」

まるで、耳元から熱と一緒に胸の中に流し込まれるような言葉。うなされているような声に、指1本動かせなくなる。

……心臓が……壊れそうだ…………。

「好き……やで……」


唐突に途切れがちになる言葉。あたしの肩口に顔を埋めた真子の重みで、身体が傾ぐ。

二人して床に倒れこんで…………って、あれ?

ふっ、と軽くなる空気。ふと顔を上げて、真子の顔を見上げると……。



…………寝てやがる!!

「この……無駄にドキドキさせんな、馬鹿!!!」

ばちん!…と、平手で金色のおかっぱ頭を本気でひっぱたくも、この馬鹿、目を覚ましゃしねぇ!

ベッドから毛布を引っ張りおろすと、ばさっ!と乱暴に真子の上に投げて。


……あのギンとの幾つもの夜がなければ、あたしは生きて真子と逢うことは叶わなかっただろう。

「真子は……その方が良かった……?」

……卑怯な言い草だってわかってるけど。


真子の上に放った毛布をきちんとかけてやって。

その隣に潜り込むと、いつかギンにしてやってたように、真子の頭をそっと抱き締めるようにして眠りについた。



(2009.10.03. up!)



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