もっと光を






あたしにとっての『その行為』は、正に、絶望の象徴だった。
 
失くしたものの喪失感に囚われて、闇の中で蹲って声を殺して泣いて。心は、ぎりぎりと荊に締め上げられるようにして闇に縫い付けられて。

……それを無理矢理、外界に引き摺り出され、正気に戻れと与えられる痛みだ。…心ごと荊を引き千切られて、血が噴き出す様を見ない振りをして。

だけど…………。



「真子……真子……!」

言葉が感情に追いつかなくて、縋るように口にするのは、たったひとりの名前。

「砂南……」

今は短く切り揃えられた金髪がほおに触れるほど近くにある真子の顔。大きな手が頬を包み込むように触れて、まるで不安を吸い取るかのように深く重なる唇。

深く身体を繋げたまま、強く抱き締められて。その腕に苦しいくらいの力がかかるほどに、まだ じくじくと血を滲ませていた心が癒えていくような感覚。

闇から引き摺り出されるのではなく、霧が晴れるように闇が光に融けていく。

あたしを抱く真子は、110年前に初めてキスした時と同じ顔で、あたしを見つめていた。……どこか、ほんの少しだけ後ろめたそうな表情で。


けれど、それも ほんの一瞬のこと。

与えられる感覚に素直に溺れていく あたしに、安心したように ふわりと笑う真子。

……知ってたよ。子供だった あたしのことを考えて、手を出しあぐねてたこと。真子が、あたしを大切に想ってくれてること、100年の間に、やっと気付いたんだ。


……ねぇ、真子?……あのね…………?



   *   *   *   *   



不安そうに俺の名前を呼び続けていた砂南が、やがて子供みたいに甘えきった表情を見せて俺の胸に顔を埋め、眠りに落ちたのを見届けて。

「……阿呆が。俺のことなんか、忘れてしまえばよかったんや……そうしたら、こんなに傷つくことなかったんやで……?」

けれど、それでも。

もう今更、離されへんけどな……。


……なぁ、砂南?

「好きやで……」


眠る砂南の耳元で囁くと、そっと黒髪を掻き上げて額に唇を押し当てた。



(2009.08.23. up!)



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