Peach Time






「あれ、今日は早いんだね真子」


勝手知ったるワンルーム。主の姿のない部屋に上がりこんで、買ってきた雑誌をめくっていると、頭からバスタオルをかぶった砂南がバスルームから姿を現した。

「なんや、風呂入っとったんか」

「うん。今日は、おっさんたちのコピーバンドの練習に付き合わされてね。…約束の時間の直前に虚 見つけちゃって、ソレ倒してから待ち合わせ場所に全力疾走したもんだから、汗だくになっちゃって。……スタジオ入ってからも、つい全力出しちゃったし」

「ギター背負って全力疾走?」

「いや、今日はヴォーカルのみだから手ブラ。ジャパメタのコピーバンドだから、おっさんたちの中にハイトーンヴォーカル出せるヒトがいない、ってんで」

 
オーバーサイズのロンTにショートパンツ、という格好の砂南は、俺の寝そべっているベッドの端に腰を下ろすと、ペットボトルのミネラルウォーターを呷る。

「……なんか、甘い匂いすんな」

起き上がって、後ろから砂南の腰に腕を回して抱き寄せて。首筋に鼻先を埋める。

「うん、バンドのお客さんにもらった石鹸使ってみたの。……って真子、くすぐったいってば」

ひくん、と身体を震わせて、ふるふると首を振ると、まだ濡れた髪から水滴が飛んだ。

「…って、オマエ、ちゃんと髪乾かさな風邪ひくやろが」

砂南からバスタオルを引ったくり、なるべく丁寧に水気を拭う。

頭からかぶせたバスタオルに隠れるように、後ろからチュッと音を立てて口付けると、明らかに風呂上りのせいだけじゃなくピンク色に上気する頬。


「真子ぃ……」

振り向いた砂南の目は潤んでいて……。

「…………いつのまに、そんな おねだりの仕方、覚えたんや」

「お、おねだり!?ち、違……!」

慌てて否定しようとする砂南に最後まで言わせず、唇を重ねて。

「……昔は砂南、こーゆー科白の意味をソッコー理解するよーな子ぉやなかってんけど」

「…………」


くすくす笑いながらベッドに横たえると、観念したように目を閉じ、腕が俺の背中に回る。

その瞼に唇を押し付けながら、まだ明るい窓に手を伸ばし、静かにカーテンを引いた。



(2009.08.17. up!)



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