歩いて帰ろう






今日も、一護は修行中だ。

ふと崖上の定位置に目をやると、ぼんやりと手元に目線を落としている砂南。


あー……そうか…………。

「ハッチ、ちょっと結界開けてや。俺、砂南 連れて1時間ばかし出てくるわ」

「はいデス」


瞬歩で砂南のところまで移動して腕を掴むと、そのまま入り口へと跳ぶ。

「ちょ…ちょっと、真子!?」

突然のことに足元をふらつかせる砂南の肩をしっかりと抱いて、耳元で囁く。


「ちょっとだけ、デートせぇへん?」



   *   *   *   *   



そのまま。真子に肩を抱かれたままアジトを出て、ゆっくりと街を歩く。

「そこでええか?」

「あ……」

指し示されたのは、明るい雰囲気のコーヒーショップ。

さっさとセルフのカウンターに向かった真子は、メニューを一瞥し 振り返って言った。

「何がええ?最近、あんまり構ってやれへんかったから、奢ったるわ」



「はー……生き返る……」

思わずショーケースのガトーショコラに目を奪われているのを真子に目敏く気付かれて、それも買ってもらって。

ダブルショットのカフェラテを啜り、ケーキにフォークを突き刺しつつ呟いた科白に、くすくすと笑う真子。


「オマエ、さっきカフェイン切れて辛そうな顔しとったもんなぁ」

「そ、そう……?」

は、恥ずかしいな、なんか……。

「今朝、コーヒー飲むヒマなかったもんなぁ。アジトのストックも切れとったし」


……それで連れ出してくれたんだ。

「ん?なんや、どうした?」

いつもの皮肉な笑みすら、なんだか優しく見えるのは、贔屓目ではない……よね?

「ううん、ありがとう真子」



コーヒーショップを出て、なんとなく遠回りして帰ろう、ってことになって。

教会の前を通ると、結婚式をしている。真っ白なウエディングドレスの花嫁さんの姿。

どちらからともなく立ち止まり、それを見つめていると、不意に顔を寄せてきた真子が耳元で訊ねる。

「……着たいん?」

「んー……あたし、もう2回も着てるしなー」

別に、特に含むところもなく答えた科白。けれど。

「は!?なんやソレ!オマエ、いつのまに……!」

あ……すごい、無茶苦茶動揺してる。こんな真子、初めて見たかも。


「ライヴの企画でね。裾破ったドレス着て、マシンガンのモデルガン抱えてさー……」

その答えを聞いた途端、頭を抱えて道端にしゃがみ込む真子。

「…………おどかすなや」

その姿勢のまま、目だけ こちらに向けて。

「……で、もう1回ってのは?」

「ついこの間。一護のとこの学校の手芸部のモデルに駆り出された。あ、ドレスは石田くん作ね。ステージ衣装つくってもらう交換条件で」

「あー……なるほど」


ゆっくりと立ち上がる真子。

まるで花嫁をエスコートするかのように、すっと優雅に手を差し伸べる。

「帰ろうや」

繋いだ手。指を絡ませた その手に力を込めて真子を見上げると、もうすぐ近くにあった優しい目。重なる唇を感じながら、目を閉じた。



(2009.08.09.up!)



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