06
広場から王宮に帰ればキーラは直ぐに地下牢へと入れられる。
そこで薬を作るのだ。
父と母から教わったこの知識が好きだった。
勉強して早く二人と働きたかった。
けれどどうだろう。
今自分は独り、この薄暗い牢で作りたくない薬を作らなければならない。
この自分の知識がまさか仇となろうとは思わなかった。
6年だ。
たったの6年。
幸せだった。
毎日朝起きたら3人でご飯を食べて父と母が仕事をしているのを飽きもせず見ていた。
たまに薬を作ってみたり、島の人と遊んだり。
楽しかった。
優秀な薬剤師であった両親は忙しそうだったけれど私との時間はちゃんと作ってくれる優しい両親だった。
そんな両親に教わった薬学は、私の頭に零れることなく入っている。
もう、両親の欠片はそれしかない。
家も物も何もかも、あの日失ってしまったのだから。
この記憶がなくなれば私の中から両親は消えてしまうだろう。
それ程悲しいことはない。
もし、もし本当に。
この生活から抜け出せるのだとしたら、私は愛が溢れる家庭を築きたい。
恋をして、少ししか経験出来なかった家族を感じたい。
そしてこの培った薬学を人の為に使いたい。
こんな誰かを殺したり苦しめたりするのでなく、傷を癒す薬を作りたい。
叶うか分からない夢だけど、夢を見ればまだ頑張れる気がしたのだ。



***




この島を治める、基支配する貴族の名はビゲイル・バートという。
妻一人と息子娘が一人ずつで御世辞にも綺麗とはいえない容姿をしていた。
バートは世界貴族である天竜人と懇意な関係であるが、繋がりは大したものでなかった。
天竜人に媚び諂い不要になった奴隷を横流ししてもらったりしているのだ。
そう、バートは奴隷集めが趣味であった。
あらゆる人種の奴隷を手に入れるため天竜人に媚を売るのだ。
そしてバートは10年前、まだキーラが8歳の頃から彼女に目を付けていた。
8歳にして美貌と頭脳を兼ね備え、更に不思議な力を持っているというキーラをどうしても手に入れたかった。
その願いが叶うのはそれから7年後のキーラが15歳の時。
天竜人から買い取った彼女を連れ、彼女の故郷であるファーマシス島にやって来た。
3年前のことだ。

その日はどんよりと曇っていた。
冷たい風がゆるく吹く。
そんな中港に大きな船が着いたのだ。
それから降りてくるのはビゲイル一家と従者やメイドや使用人。
その後からはバートが集めた奴隷達。
キーラは降り立った瞬間、目を見開いた。
何故ならキーラは今まで目を隠され視界は真っ暗で何も見えなかったのだ。
開けた視界に映るのは9年前離れた故郷。
視界の端でニヤリと嫌な笑みを浮かべるバートの姿を捉える。
そしてバートは言った。

「今日からこの島は私の支配下だ。島民を殺されたくなければ私に従え」

人質にとったのだ。
この島を。
あんな惨劇はもう二度と味わいたくないキーラはバートに従うしか道はないのを承知の上でこの島を選んだのだ。
バートは厭な趣味を持っている。
いや、趣味というより性癖だ。
美しい人間の絶望する顔が大好きで、キーラはバートにとって恰好の餌食だった。
その美しい顔が、身体が、ボロボロになっていく様を想像するだけで胸が弾む。
そんな思いだった。
キーラはこうしてまた地獄の様な日々を送ることになる。


**


「キーラ!」

牢で薬を作っていたキーラの元に来たのはバートの長男、アントンだった。
アントンは現在13歳でふてぶてしく育っている。

「アントン、様…」

鈴の音のような声で小さく呟いたキーラに近づくアントンはその手に鞭を持っていた。
父の趣味趣向を色濃く受け継いでしまったアントンもまた、キーラをいたぶることを楽しんでいた。
それに加え13歳という思春期真っ盛りの彼は必ずキーラに言うのだ。

「脱げ」

と。
アントンは彼女のその豊満な胸を晒させ手錠を天井に吊り膝がつかないギリギリの体勢を取らせると曲線を描く括れに鞭を振るう。
その度揺れる胸を見てアントンは興奮を覚えていた。
痛みに顔を歪める上半身裸のキーラとそれを見て愉快そうに笑いながら鞭を振るうアントンの図はなんとも奇妙であるが、それを咎める者は誰もいない。
アントンの気が済めば終わるその行為の後、キーラはまた薬作りを始める。
これが日常になってしまっているのだ。

流れる涙には気づかない振りをして、ただ黙々と手を動かす他、今はどうしようもなかった。


mae tugi

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