あおいそら

チョロ松

 ハロウィン、という名の祭りに便乗して今日はチョロ松とデート、である。
 とはいっても、ケーキを食べに行くのがメインである。
 間違っても仮装はしない。
 たとえ、チョロ松に着て欲しいと何度も言い寄られていたとしても!
 そのチョイスがアイドル物だというのは…流石、だけども。

「凄いね…こんな時間からハロウィンの仮装してる子いっぱいいる」

「そうだね、つい数年前まではイベントすらなかったからね」

 おいしくケーキを頂いて、紅茶を飲みながら窓の外を見ると、仮装して歩いている子をちらほら見かける。
 さっき通った子は薄着で寒くないの?と心配になってしまうほどの薄着で、頑張ってるなぁ。と頬杖をつきながらボンヤリ見つめる。

「あ、そうだ。
 トリック オア トリート」

「…え」

 唐突なチョロ松の一言に思わず声が漏れる。
 お菓子とか用意してないよ?
 だってケーキ食べに行くのに、お菓子要求してくるとは思わないじゃん?
 なんて考えていたら、持っていないということに気がついたらしいチョロ松がニヤリ、と笑った。
 うわ、珍しいけどいやな笑み。と引きつった笑いを浮かべていると、ゴソゴソと鞄から何やら袋を出してきた。

「はい、コレ着て」

 有無を言わさず押しつけられた袋の中を見る。
 …うん、安定のアイドル風衣装。

 チョロ松をなんとか言いくるめて、家で着替えることに。
 溜め息をつきながら脱衣所で着替えていると気がついた、背中のチャックが閉められない。
 服の構造的に、前で留めて後ろに回すとかが出来そうにない。
 とりあえず上げれる所まで上げて、チョロ松に手伝ってもらうしかないか…ってかなんでここまでして着てやらねばならない?と思ったところで、コンコンとノック音がした。

「もう着た?」

 振り向いて返事をする前に、ドアが開いてチョロ松が顔を覗かせる。
 あ、ちょうどよかった。と声をかける前に勢いよくドアが閉められる。

「ご、ごめん!
 まだ着替えてるとは知らなかったんだ!!」

 焦った様子がハッキリと分かる声がドアの向こうから聞こえる。
 何を焦ってるんだろう。と一瞬首を傾げかけたが…そういえば背中のチャックが開いていて、下着が見えてますね。

「着替えてるというか、背中のチャックが閉まらなくて…。
 閉めてもらっていい?」

「えっ!?」

 チャックを閉めないと着替えが終わらないので、ドアを開けようとノブを回すも強い力で押さえられていて開かない。
 どうやらチョロ松が抵抗しているらしい。
 …いやいや、何やってんの。男なら下着堂々と見れてラッキーくらいに思って堂々とチャック上げてください。

「じゃあ、脱ぐ」

「ぬ、脱ぐ!?」

 もう面倒になったのでそう言うと、ドタッ。という大きな音がして慌ててドアを開けると、あっさり開いた。
 …のは良いけど、チョロ松が鼻血を出しながら倒れていた。

 結局、アイドル風衣装を着ることはなかった。

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