▼ タイミング
結局なんだかんだで時々トド松と仲良く一緒に帰ることも増えた、そんなある日。
いつかはこんな事態が起こるかもしれない…とは思っていたけれど、このタイミングでこの状況はちょっと予想外すぎるかなって思う。
今日の授業が全部終わって、今日はトド来るのかな?なんて考えながらズッシリと重たいカバンを持って、ゆっくりと廊下に出て見渡すと、いつの間にか見なれた顔がニコニコ…いや、どちらかというとニヤニヤ?とにかくトド松らしくない表情で近づいてきた。
トド松以外の兄弟だろうとアタリをつけて警戒しつつ、他にも生徒が沢山いたので気がつかなかったフリをして横を通り過ぎよう画策した。
「シキちゃん、一緒に帰ろうよ」
「…は?」
思わず低めの声で返してしまったが、私の名前を呼んだその声は案の定トド松と全然違う声で…多分おそ松。
「え?どうしたの、シキちゃん…?」
驚いた表情の松野君に逆に驚くというか、さっきも思ったけど馴れ馴れしい気がする。
それに何故突然私に声をかけてきたのかも気になるし、トド松のフリをしているのも気になる。
「…松野君こそどうしたの、急に」
相手の顔をジッと見つめながら様子を窺うと、驚いた表情から困った表情になって頭を掻いてどうしようかな…っていう雰囲気で目線を少し上に逸らしてなにやら考えている様子だった。
ノープランで来たのか、この人。
「あー、いたー!
おそ松兄さん、シキちゃんに勝手に会わないでって言ったでしょ!」
プリプリ怒りながら、今度こそトド松が人を避けながら廊下を走ってきた。
トド松の発言通りなら、目の前にいるのは想像通りおそ松というわけで…興味本位で私に声掛けてきたのかな?
走ってきたトド松がおそ松の隣に立って、ブツブツと文句を言っている。
まぁ、6人もいると秘密にしたい事も秘密にできなかったりして大変なんだろうね、ヒトゴトだけど。
「えっと、さっき来たのがトド松君だから、こっちはお兄さんだよね?
いつ見ても本当に似てるね」
文句を言ってるのをさえぎるように声をかけると、二人とも私の方を見た。
トド松は困った様な顔で、おそ松は助かった!という嬉しそうな表情で、それぞれの心境が垣間見える気がした。
「そうなんだよ…。
六つ子だから似てるのは仕方ないんだけど、やっぱり同じ顔だから色々困るんだよね…」
「まぁ、便利な事もあるけどな!」
「おそ松兄さんは黙ってて!
ほんと、シキちゃんゴメン!
愚兄の事は無視していいからね?」
さらっと兄を卑下したトド松は、私の腕をとって歩き始める。
「ねぇ、愚兄ほっといて大丈夫?」
おそ松と絡むよりマシかな。と自己完結して、引かれるままにトド松について歩く。
後ろを振り返るとおそ松が、グケイってなに?と周りに聞いてたのでしばらくは追いかけてこないと思う。
「大丈夫。兄さんなんかよりシキちゃんの方が大切だからね!」
今、キュンとしました。
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