▼ あめ
仕事帰り予想外の大雨で、傘を忘れた私はずぶ濡れ。
すれ違う人は私に気が付かず、スレスレを傘が素通り。
ぼんやりと辺りを見渡して、このままじゃ風邪ひいちゃう…。とため息をついて足を踏み出そうとした。
「なに…やってんの?」
ガシリと手首を捕まれて振り返ると…透明のビニール傘をさした一松が、眉間にシワを寄せて立っていた。
「風邪、ひくだろ」
なんでココに居るのか分からず首を傾げると、ため息とともにそう告げられて、傘の中に引っ張り入れられた。
いつの間にか出した、お風呂屋さんの名前入りのタオルを首にかけられて…思わずタオルを握りしめる。
「…ありがと」
思わずそう呟くと、一松は…しょうがないな。とでもいうように笑って私の手を再び引いて歩き始めた。
もう私は濡鼠状態だけど、それ以上濡れないように傘を無言で傾けてくれていて…。
色々と聞きたい事があったけど、ギュッと手を握り返して一松の隣を静かに歩いた。
たどり着いたのは、年代物の一軒家。
夕暮れから夜に変わりかけている中、オレンジっぽい光を放つ丸いライトの下に松という字が書いてある。
もしかして、一松の家?と無言で一松を見上げると、一松はガラガラと玄関を開けて無言で入るように促した。
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