▼ やさしさ
一松に連れられて数分後、薄暗い路地裏に到着した。
なんとなく生臭い…。
「本当にココにいるの?」
「…いるよ」
スッと座った一松の足元に猫が…ごろにゃん。
私を素通りして、一松に擦り寄って喉を鳴らしている。
…羨ましい。
彼に甘えている猫…私を1度も見なかったから、絶対に気がついてないよ…。
試しに目の前に手を差し出してみる…ギャッ!引っ掻かれた…。
「何やってんの…」
「手、出しただけなんだけど…」
呆れたような表情で一松がコチラを見て、ホントに影、薄いんだ…。と呟いた。
聞こえてるぞ…。と内心思いつつ、だから言ったでしょ。と言い返しておく。
「そういや、スタバァで見たのは何松?
そもそも何しに来てたの?」
「あぁ…あれね。
長男のおそ松兄さんだよ…。」
なんでも、一松の行動がいつもと違う…とかで、根掘り葉掘り話を聞かれて渋々話したら、俺も会いたい!とか叫びながらダッシュで出ていったのを必死で止めた。とのこと。
大変だったね…。そう、ねぎらってあげると彼は微かに疲れた表情で頷いた。
兄弟が多いと、大変なんだろうね…。
痛む手を押さえていると、いつの間にか立ち上がっていた一松に、また腕を引かれて強制的に立ち上がって連れていかれる。
急になんだろう?と思っている間に、近くの公園の水道水を傷口にぶっかけられた。
水が染みるというか、水圧で傷口が押されて地味に痛い…!
優しさが痛いよ、一松!
一向に離さない手を無理やり解いて、水攻めから難をのがれる。
「いつまで水かけてるの!
ありがた迷惑だよ!!」
「…傷口からバイキンが入ったら大変だからね」
憎まれ口をたたいているが、少し顔色が良く見える。
…照れてる?
案外、優しいところもあるんだ…。と思いつつ、ビショビショになった手と袖口をハンカチでぬぐった。
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