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「あれ、天女様だ。」
「天女様まだ生きてたんですか?」
「誰か先輩に知らせてこようぜ!」

きゃいきゃいといつもと変わらない様子で毒を吐く後輩に、***はキョトンとしてしまう

「・・・えーっと、はい。一年は組の諸君。定食選んで。」
「あー!!***先輩だ!」
「お帰りなさい!」
「いつ帰ってきたんですかー?」
「さっき帰ってきたよ。さ、選んで選んで。」

恐怖を思い出ししゃがみ込んでしまった愛野を無理矢理立たせ、耳元で負けるな。と呟く

「天愛羅に非がない限り、私は天愛羅の味方だから。」
「ま、けないわよ・・・!生きて、帰るんだから。」

一年、二年、三年、と埋まっていく食堂に、忍者らしくない足音を響かせて上級生が駆け込んでくる
そして、***を調理場から引っ張り出した

「ちょ、なに、」
「あの女に近づいちゃダメだ!」
「小平太、うるさ」

耳元で叫ばれ、思わず耳を押さえる

「先輩が帰ってくるまでに終わらせるつもりだったのに!」
「あーうん。天愛羅は殺しちゃダメだからね。」

はいはい。とあきれ気味に言われた台詞に、食堂全体が静まり返った

「学園長から、天愛羅の命を保障する文書ももらった。監視役は私。文句があるなら私に。さ!昼食を選んでくれない?」
「***、正気か?」
「あの女に弱みでも握られてるのか!?」
「今すぐあの女殺してきます。」
「うるさい!!」

ピシャリと声を張られ、誰も言葉を発さなくなった

葬式のような食堂で、ようやく全員を捌いた***は天愛羅と一緒に食事にありつく
じととみてくる同輩たちにやれやれと、気付かないふり

「居心地、悪いわ・・・」
「気にすることはない。一生ここで生きるわけではないのだから。」
「そんなこと言ったって・・・私、ここ以外知らないのよ。」

今更ながら、嫌われ具合を痛い視線で知らされ
私可愛いから、なんでも許されてきたもの。とぼやく

「まぁそう落ち込むなよ。私が卒業するときに娶るから。」
「目取る?」
「言い方が古いか。」

ゴソゴソと着物を漁り、櫛や化粧道具を取り出しては違う。としまう
何してるのよ。と不機嫌そうにみてくる愛野に、あったあったと左手だして。と手を差し出した

「はい。」

手のひらをみせてだされた手をくるりと返し、薬指に玉の指輪をはめる

「・・・なによこれ。」
「やっぱり少しデカいか。」

男なのになんでこんなの持ってるのよ。と訝しげに指輪を眺める愛野に
簡易女装セット。と、貧相な櫛から富裕層に好まれそうな櫛まで数本見せ、その一部。としまい直す

「この時代にはエンゲージだのマリッジだの概念はないけど、今度の休日に作りにいこう。」
「ちょ、ちょっと待ってよ!え、なに、結婚しよう、ってこと!?」

思わず声の大きくなった愛野のせいで、食堂に残っていた上級生の一部が殺気立つ

「先にいわれた。まぁ、うん。元いたとこより便利ではないけど、不自由させないよ。」
「帰るって言ってるじゃない!」
「帰るときになったら帰っていい。ただ、私が卒業するまでに帰れる保証はない・・・保険は、あったほうが精神の安定剤になる。」
「もし、あんたに恋人とか」
「恋人ならもういる。ただ、その人と婚姻はしない。これも、結婚とか考えず養って貰える契約みたいに思えばいい。」

迷惑なら撤回するけど。と食事を再開すれば、うっすらと頬を色づかせた愛野が
お人好し。と悪態をついた

「ははっ、全くだ。」
(笑った、)