- ナノ -


512

 桜の木が徐々に色づき始めた。今年もこの季節がやってきたのだ。彼は竜に言った。わくわくする気持ちといっしょに、なんでだろう、心がざわざわする。気が早いかもしれないけど、花が咲きそろう前にもう……散るときのことを考えてしまってるのかもしれない、とも。
 竜は桜を見上げた。桜はそのときのことなどまるで思いもしないように、命を輝かせていた。


[