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 ふふ、と突然、彼は笑った。怪訝な顔を向ける竜に、彼が言う。今さ、長い雨のあとに、これで思いきり飛べる! ってすごく嬉しそうに飛んでった君を思い出してね。竜はやや照れ臭そうに言った。そんなに嬉々としていたか。それはもう、と彼は頷く。そしてそのまま、少し表情を引き締めて空を見上げた。
 なんかこう、おっきなことして誰かの記憶に残る人にならなくていいからさ。僕も、ふとしたときに思い出してもらえるような、そんな人になりたいな。
 少々恥ずかしいことでもか? と竜。それもまたよし、と彼は微笑んで答えた。


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