- ナノ -


405

 真っ暗闇のなかに独りで立って、微かな星あかりを浮かべていく。お話を書くのってそんな感じかな、と彼女は言った。あたしの書くものなんて、ちっぽけでいまにも消えちゃいそうだけど。でも、誰かがふと目にして、なんとなく懐かしいなとか切ないなとか思ってくれたらってさ。
 薄く広がった夜の雲に包まれ、優しく光る星々。その下を飛びながら、竜はいつかの彼女の、そんな言葉を思い出していた。


[