あとがき
- ナノ -



先生の配慮 あとがき

 文を書くのも本を読むのも好きなのに、書き上げられない。
 書いてみたいこともたくさんあるのに、仕上がらない。
 そんなふうにして捨てられてきた作品が私の部屋には何本も転がっている。なかには横線ノート四冊に及ぶ物語も。我ながらもったいない。そこまで書いたのならもう少し辛抱して最後までかけよという話。ところが私は自分で思うよりもずっと根性なしらしい。物語の終わりの方にさしかかると必ずと言っていいほど最初の部分が気になって一ページ……一行……一文字と書けなくなっていってしまうのだ。どんどん冷めていく自分の作品への愛。そうなったらもう終わりで、たいしたプロットも立てていない私の作品はいつの間にか部屋の片隅に姿をくらましてしまう。次に発見したときはどうやって物語を完結させようとしていたのか詳しいことはすっかり忘れてしまっているというありさまだ。
 ということで、今回の私の作品は人生で最初の「完成した」作品なのである。書いている途中で案の定また飽きてきたりあきらめそうになったりしたが、その分書き上げたときの達成感というのは大きかった。まさに感無量、である。とりあえずは「未完成の作品は駄作ですらない」という言葉から抜け出すことができたというわけだ。何年もこの言葉に苦しめられてきた私にとって、これは相当うれしいことだった。と同時に、複雑な気持ちであったことにも変わりない。それというのも長い間書いてみようとしてきた「物語」というジャンルの作品は一度も仕上げることができなかったのに、今回初めて挑戦した「エッセイ」というジャンルではすぐに仕上げることができてしまったからなのだ。物語が好きで、いつでも物語を書きたいと思ってきた私はなんだか少し悔しい気分でもあった。好きだからってうまく書けるとは限らない。反対にやってみたことがないからって書けないとは限らない、ということなのだろうか。こうなったらいつか、物語もエッセイも、ほかのいろいろなジャンルの文章も書けるようになってやろう。そう思った。
 「先生の配慮」は、そうした中で今自分が出せる限りの力を出して書いた作品だ。一段落、一行でも読んでくださったなら幸いである。


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