- ナノ -


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 ざあ、と太陽の季節の熱い風が吹き抜けた。少年は両手を広げ、それを全身で受け止める。夏の風ってさ、なんだかこう、いまからなんでもできるぞーって感じがしてわくわくするんだよなあ。彼が視線を向けると、竜も羽を広げて風を受けていた。わたしも、この時期の風を掴めばどこまででも飛んでいけるような気持ちになる。
 空は突き抜けるように青い。まるで少年と竜を待っているかのようだ。


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