- ナノ -


94

 空を翔けることのできるその竜にも、海の中を泳ぐことはできなかった。竜は砂浜に佇み、きらきらと輝く海を見つめる。その下にある世界を目にすることは、これからもない。しかし、竜にはそれもまた、よきことのように思われた。世界の、途方もないほどの大きさと絶望、希望を、思い出すことができるから。


[ ]