はたして その子どもの竜
丘のうえの木のしたで
空に向かっては 跳びあがり
小さなからだの 小さな羽
必死にはためかせていた
けれどもやはり 小さな羽
竜のからだを支えるには
あまりにはかないものだった
子竜は跳びあがっては落ち
跳びあがってはまた落ちる
地面にからだを打ち付けて
傷だらけの鱗は土と草に
すっかり塗れてしまっていた
旅人 子竜にこう問うた
どうしてあなたはそんなにも
空を目指して羽ばたくのです
自分のからだを痛めながら
それでもなぜ 「何もない空」
目指すのです、と
子竜はなおも跳び 羽ばたき
その度 地面に落ちながら
旅人に答えて こう言った
なぜってぼくにもわからない
だけれどもしも 飛べたなら
どんなに気持ちがいいだろう!
どんなにすてきなことだろう、
すきとおった 空気をつかんで
大地をわたる 風といっしょに
どこまでも 遠くへ行けたなら。
それにぼくは お空がすき!
だいすきなお空の もっと近くに
ぼくは 行ってみたいんだ!
旅人 ひとつ こう尋ねた
たとえ その旅 もう二度と
戻ってくることできなくとも?
子竜 はじめて跳ぶのをやめ
旅人見つめてこう言った
たとえ その旅 もう二度と
だいじな だいじな この場所に
戻ってくることできなくても――