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 満開だった桜も、いまや新緑の色合いを強めている。それを見て、あっという間に散っちゃったね、と少し寂しげに彼女は呟いた。まだ花盛りの場所がある、と竜は言う。首をめぐらせて一点を指した。そこには、たくさんの桜の花びらを乗せてごく緩やかに流れる川があった。
 花筏……と彼女の口から言葉がこぼれた。竜は頷く。彼女と竜はしばし、その桜色に微笑む川を眺めていた。


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