- ナノ -


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 何かを叫びながら、翼竜が竜に向かってきた。急速に距離が詰まり、翼竜の爪が竜を引き裂かんと閃く。言葉が聞き取れたのはその時だった。あかちゃんをかえして、と──。
瞬間、鈍い音がして翼竜は倒れた。緑の鱗を持つ竜が翼竜の腹に一撃を加えたのだ。救われないな、と緑竜は呟く。彼女の子は人に奪われた。従わねば殺す、と脅されて彼女は竜を襲っていた。無論、従っても子が彼女の手に戻ることはない。人に利用されるだけだ。それでも、見捨てられなかったのだ。
 竜は翼竜を見た。見開かれた目から、涙がこぼれ落ちていた。


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