- ナノ -


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 おれ見たんだ、と彼は竜に言った。天気の悪い日だったけど、夕方の一瞬、雲間から夕日が差し込んだ。その光の梯子の中に、細くて、長くて、ゆらゆらと揺れるような……真っ白な龍がいたんだ。竜が目を細めて言う。あの光の龍は雲の上に暮らしていて、なかなか姿を現さない。良いことがあるかもな。
 春を待つ空は快晴。雲も、白龍の姿もなく、青が広がっている。いいことなんてなくてもいいから、またあの龍に会いたいものだ、と彼は空を仰ぐ。 


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