6‐1
- ナノ -


6‐1


 確かに私の夢は虚構であり、失われてしまいました。
 ですがそれによって分かったことや気づいたことは、このように、とてもたくさんあったのです。
 そしてその中で、私は本当に書くのが好きなのだということを、改めて知りました。
 私は以前より自分に素直な文章を書くことができるようになったと思います。自分のためでなく、誰かに伝えたい……という、その思いで。
 作家になれば、まだ会ったことがないたくさんの人たちにも自分の思いを伝えることができるでしょう。
 でも、お金と社会の中で生きながら作品を書いていく作家という職業で、「誰かに伝えたい」という純粋な思いを持ち続けるのはとても難しいことだと思います。
 それこそ、プロにしかできないことです。
 第一、まずは自分のまわりにいる一番身近な人々に自分の思いを伝えられなくて、たくさんの人たちに思いを伝えられるでしょうか。
 自分の存在を主張するために握りしめてきた夢から解放されて、私は今、やっとスタートラインに帰ってきたのです。
 それは作家という夢に続く道でもあり、同時に数えきれないほどの他の夢へと続く道でもあります。
 もしも私が夢のように夢見ていた作家という仕事が本当の夢ならば、私はやはり、おのずとその道を選び取ることでしょう。
 また、たとえ他の夢にたどり着いたとしても、それは「正しい」ことであると思います。
 ただしどんな夢にたどり着いたとしても、私はどこかできっと、文を書き続けているでしょう。
 誰かに伝えたいことは……
 自分の悲鳴なんかでなく、本当に私が伝えたいと思っていることは……
 毎日、限りなく生まれてくるからです。




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