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「#年下攻め」のBL小説を読む
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変なところで律儀ですね

部活から帰り、自分の部屋で自習をしていた時だった。

なんとも軽快な音に、心底驚いた。
自分の携帯の着信音ではないし、基本はマナーモードにしているから、鳴るはずなんてない。
まして今はポケットの中だ。

鳴り止まないメロディーはどこかで聴き覚えがある。

ベッドの方へ振り返ると、そこに投げ出されたスクールカバンからその音は鳴り響いていた。
恐る恐る近寄り、サイドポケットを確認すると、中から山形先輩の携帯が出てきた。

「え!?なんで!?」

なんでこんなところに山形先輩の携帯が入ってるんだ…。
ディスプレイに表示されたのは「天童 覚」という文字。
慌ててスライドして電話に出る。

「も、っしもし!」

『…あれ?きみだれ?』

「みょうじです…あのこれって、山形先輩の携帯ですよね」

『え!?なんでなまえが出んの!?まさか不純異性交遊!!?』

電話の向こうが、騒がしくなる。
みょうじが!?ウソだろ!?
など天童先輩の軽い言葉を真に受ける人たちの声が聞こえた。

「私のカバンに入っていたんですよ。あらぬ誤解を受けるような発言はやめてください」

『なんでみょうじのカバンに隼人くんの携帯入ってんのサ!怪しい!』

もうこの人どうして話を聞かないんだ。
なんで携帯が入っているかなんて私が聞きたい。
一から十まで相手してたら際限ないので、「今から持っていきます」と伝えれば、「プリン買ってきて〜」なんてパシることも忘れてない。



家から学校までは自転車で五分。
さして遠くない距離。
頼まれたプリンをコンビニで買い籠に投げ入れ、自転車をこぎ抜けた。

学校の寮へ差し掛かるところで人影が見えてスピードを落とす。
あの後ろ姿はたぶん…

「山形先輩!」

「?!ああ、みょうじ、どうした?」

どうした?じゃないよ、この人は…
ランニングでもしていたのだろう、ジャージ姿の先輩は額に少し汗をかいていた。

「携帯!どうして私のカバンに入れてるんですか!」

「んー?あ!そうか!お前のカバンに入れたんだったな」

手に持っていた携帯が邪魔で、目の前を歩いていた私のカバンのサイドに入れさせてもらったんだったと説明する。
なんだそれ…私は携帯置きかよ…。
あからさまに嫌そうな顔をしたら、ごめんな、と苦笑いして携帯を受け取ってくれた。

「こんな時間に一人で出歩かせて悪かったな。家まで送る」

「良いですよ、自転車ですから。山形先輩も早く帰ってクールダウンしてください」

「このままお前を一人で帰して何かあったら、一生後悔するからダメだ」

「ふふ、なにそれ。先輩も変なところで律儀ですね」

遠い距離でもないし、私は本当に構わなかったのだけど、山形先輩がそういうので送ってもらうことにした。
陽もどっぷり暮れてお月様は我が物顔。
自転車を挟んで歩いて帰ろうとすれば、山形先輩はハンドルを掴んだ。

「俺がこぐから、みょうじは後ろに乗れ!」

あ、先輩の目がなんだか楽しそうに輝いている。
私から半ば強引に奪って自転車に跨ると、もう一度嬉しそうに「乗れ」と言った。
これ、私の自転車ですよ?
でもそんな先輩が可笑しくて、後ろタイヤの中心の留め具に足をかけた。

「座ってるのはお尻が痛いので、これで」

「なぁ、携帯落としそうだから持っといてくれ」

先輩は先ほど返したばかりの携帯をまた私に預けた。
確かに山形先輩の今日のジャージのズボンはポケットが浅そうだ。
しかたなく、携帯を預かって自分のポケットへ入れる。

先輩の肩を掴んでバランスを取る。
こぎ始めはぐらぐらしたものの、走りだせばすぐに安定した。
座らなかったのは、腰回りを掴んで密着する体勢になるのが恥ずかしかったから。
別にそういう感情が、あるわけじゃ、ないのだけど…
なんとなく。
そう、なんとなく。
後ろからは顔とか見えないけれど、軽快にこぐ様子はあきらかに楽しそう。
筋肉がたっぷりと付いた肩に触れてる指先はなんだか熱い。

「自転車って楽しいな」

風を切ってびゅんびゅん進むスピードは私が一人で乗っているときと変わらないほど早い。
だからあっという間に家に着く。

「あ、先輩止まって!ここです!!」

甲高いブレーキ音をたてて止まり、その反動で降りる。

「送っていただいてありがとうございました」

「こっちこそ悪かったな」

先輩は自転車から手を離そうとしない。

「あ、これ天童先輩に頼まれたプリンです」

籠に入ったプリンを見てそう言ってみるが、興味なさそう。
そんなに気に入ったのか、自転車。
じっと自転車を見つめている。

「…寮まで乗って帰って良いですよ」

「!でもそうするとお前が明日困るだろ?」

「朝は歩いて行きますから」

「おう!わかった!なら、明日の朝六時半に迎えにくるな!そしたらまた二人乗りできるだろ?」

「はい?!」

先輩の満面の笑みでの回答は甚だ理解しかねる。
自転車に乗りたいというより、二人乗りがしたかったのか。

「山形先輩へんなの」

可笑しくてお腹を抱えて笑えば、そうか?とキョトン顔。
普段バレー部での真面目な姿を見ているから、こういう子供っぽいところは本当に意外。


「じゃあ、明日六時半に待ってますね」

ひとしきり笑ってそういえば山形先輩も笑ってくれた。

「また明日な!」

自転車に跨り、片手を挙げた山形先輩に手を振り返した。
けれど先輩はその手を「ん」と言って突き出す。
疑問符の末、ああ、ハイタッチか!
少したじろいで、先輩の大きな手に軽く触れる…

「!!?」

つもりだったのに。
ぎゅっと握られてしまった。
思っていたより温かな手。
宙で繋がれたその手を見て一気に熱が上がる。


「おやすみ、みょうじ」


一瞬でその手は離れていった。
にっといたずらっぽく笑った先輩は、こぎだした自転車に乗って夜へと消えていった。
ぽつんと残された私は、ポケットで鳴り出す聞きなれない着信音によって現実へ戻され気付く。


「あ…携帯返し忘れた…」


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