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大きな砂が目に入って

まったく嫌になる。
ちょっとテストの裏にふざけて描いた落書きを消し忘れただけで、放課後呼び出しとか…。

「鍛治くんに怒られちゃうナー……っと、」

部室のそばまで行けば、その前で誰かがしゃがみこんでいるのが見えた。
誰か、なんて本当は一瞬でわかったけど。

「なまえチャーン。なぁにサボってんの?」

「てんど、先輩っ!? さ、サボってないです!…ちょっと大きな砂が目に入ってしまって…」

立ち上がれなくて、と隠すように目を擦る。

「それはそれは随分と大きな砂が入ったんだネ〜。見せて見なよ」

両頬を掴んで顔を持ち上げれば、随分と長いこと泣いていたらしく目元は真っ赤に腫れ、ぐずぐずと汚い顔。
あーあー…なんでこんなに泣き腫らしてんだろうね、この子は。

「うちの大事なマネチャンを泣かしたやつは誰かな?」

声のトーンが低くて、びくりと肩を揺らしたのを見逃さない。
視線は逃れるように漂って、口は言い淀んでいた。

「ダ・レ?」

「……う、うしじま、さんが…」

「は?若利くん?」

強い口調で迫れば、出てきた名前に驚いてぱっと手を放した。
まさかなまえちゃんを泣かすようなことを若利くんがするとは思えない。
だって、あの若利くんが彼女に対してだけは優しく(当社比)微笑む姿が時たまにみられるぐらいだから。

「…牛島さんのスパイクが、当たってしまって…」

彼女がしゃくりを堪えながらゆっくりと持ち上げた腕は赤く腫れ、どこにボールが当たったかなんて一目瞭然。
さすがのこれは…

「なまえちゃん、何しでかしたノ…?」

と言う他ない。
若利くんはああ見えてフェミニストだ。
誰に対しても優しい無関心なことには変わりないけど、なんとなく、なまえちゃんは彼の中で存在感があるんだと思う。
毎日“部活”という同じ空間にいるというだけじゃなく、若利くんにとってはきっと“視界に入る”存在。
それがどういう存在なのかはわからないケド、きっと特別。
その彼がわざと彼女にこんな手酷いことをするは考えられない。

「とりあえず、保健室行こっか」

「…っごめ、なさ…」

堰を切ったように泣き出した彼女の痛んでいない方の手を引いて歩いた。



スパイク練習の最中に、落としたボトルを拾うためにコートの中に飛び出してしまったらしい。
とっさに腕で庇ったけれど、吹き飛ばされて転がった。
そんな状況なのに転がりながら「牛島さんのスパイクはやっぱりすごい」って思ったとか。
ごめんなさいと謝ろうと口を開きかけた時、若利くんが怒鳴ったらしい。
まさかあの若利くんを怒鳴らせるなんて。

ぼんやりとしていたなまえちゃんが100%悪いのはわかりきっているけれど…

「若利くんも動揺したんだろうネ」

幸いにも折れてはなさそうな腕に湿布を貼ってもらい、様子を見ることに。
このまま帰っても良いって思っていたのに、戻り辛いけれどまだ部活に出ると言う。

「動揺…?牛島さんが…?」

「そ。まさかなまえちゃんを自分が傷つけるなんて思ってなかったから動揺して、それで大きな声になっちゃっただけだろーネ」

よくわからないのか、首を傾げる彼女に呆れた笑いが漏れた。
そうだよね。
きっときみたちにはわからないよね。
周りから見ている俺たちにしか、きっとまだわかってない事。


それは気付いて欲しいような、気付かないでいて欲しいような。


「と、とにかくっ…土下座で謝ります!!許して、くれますかね…?」

彼女の中では、スパイク練の邪魔をしたことを怒っている、と思っているに違いない。

「しょーがーないなァ!俺が一緒に…」

「あ、いえ、天童先輩はちゃんと監督に謝ったほうが良いですよ」

「え?マジ?怒ってた?」

「…結構」

「アッチャー…」

「先に戻りますね!早く着替えてきた方が良いですよ」

ハイハイ、と返事の代わりにひらりと手を振った。
さっきまでの泣き顔は、嘘みたいに悪戯っぽく笑っている。


「天童先輩、ありがとうございました!」


うん。
まぁいいや。
きみがわらっているなら。



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